気候関連の財務情報開示

気候変動は世界共通の重要な課題です。世界各国は脱炭素社会の実現を目指してパリ協定に合意し気候変動への対策を進めています。
MS&ADインシュアランスグループにおいても、社会や当社グループに大きな影響を及ぼす気候変動に対する取組みを進めています。
例えば、自然災害による被害からの社会の回復力や気候変動への適応力の向上を支える取組みとして、防災・減災に資する商品・サービスの提供を推進しています。また、保険の提供や投融資を通じ、気候変動によるリスクを低減するための新たな技術の研究開発・普及を支援し、脱炭素社会への移行に貢献しています。
気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TCFD」)は、気候変動への対応を「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つのフレームワークに沿って開示することを推奨しており、当社グループは、この考えに賛同し、気候関連の情報開示を進めています。

 

1. ガバナンス

当社グループは、取締役会、グループ経営会議、及び課題別委員会による気候関連のガバナンス体制を敷いています。
取締役会は、法令・定款に定める事項のほか、グループの経営方針、経営戦略、資本政策等、グループ経営戦略上の重要な気候関連の事項及び会社経営上の重要な気候関連の事項の論議・決定を行うとともに、取締役、執行役員の職務の執行を監督しています。取締役会では、気候関連を含むリスク・リターン・資本をバランスよくコントロールするため、リスク選好に基づいて経営資源の配分を行い、健全性を基盤に「成長の持続」と「収益性・資本効率の向上」を実現し、中長期的な企業価値の拡大を目指しています。取締役会は、執行役員を選任するとともに、その遂行すべき職務権限を明確にすることにより、取締役会による「経営意思決定、監督機能」と執行役員による「業務執行機能」の分離を図っています。執行役員は、取締役会より委ねられた業務領域の責任者として業務執行を行い、その業務執行状況について取締役会に報告します。
グループ経営会議では、経営方針、経営戦略等、グループの経営に関する重要な事項について協議するとともに、担当役員による決裁事項の一部について報告を受けることにより、具体的な業務執行のモニタリングを行っています。
課題別委員会は、業務執行にかかる会社経営上の重要事項に関する論議及び関係部門の意見の相互調整を図ることを目的として設置しています。気候関連の課題や取組みは、主として、課題別委員会のサステナビリティ委員会及びERM委員会(いずれも原則年4回程度開催)での論議を経て、取締役会とグループ経営会議の双方に報告し、決定します。
サステナビリティ委員会は、グループCFOが運営責任者となり、グループ各社の社長、及びグループCFO(サステナビリティ担当役員)、グループCRO、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン担当役員等で構成し、気候関連を含むサステナビリティ課題の取組方針・計画・戦略等の論議を行っています。2021年度は5回開催し、2021年4月に開催した第1回サステナビリティ委員会では、当社グループの事業活動による温室効果ガス排出量を「2050年ネットゼロ」とする目標の設定、及び本目標実現に向けた取組みについて論議し、2021年5月にこれを公表しました。2021年5月に開催した第2回サステナビリティ委員会では、今後新設される石炭火力発電所に係る保険引受の取扱いについて論議し、2021年6月に保険引受の停止を公表しました。2022年1月に開催した第5回サステナビリティ委員会では、2022年度から4年間の中期経営計画において、気候変動への対応を引き続き取り組むべき重点課題に置くこと、温室効果ガス排出量削減率や、再生可能エネルギー導入率をKPIとすることを論議しました。なお、各議論の内容は取締役会に報告しています。

ERM委員会は、グループCFOとグループCROが運営責任者となり、ERMに関する重要事項の協議・調整等を行うとともに、リスク・リターン・資本の状況や気候関連を含むリスク管理の状況等について、モニタリング等を行っています。2021年度は8回開催し、2022年2月に開催したERM委員会では、経営が管理すべき重要なリスク(グループ重要リスク)の一つとして、引き続き気候変動を管理することや、気候変動に伴う訴訟リスク等の高まりも踏まえて管理を強化することを論議し、取締役会にて決定しました。また、ERM委員会では、気候変動を含む自然災害リスク管理の高度化についても論議しており、論議内容は取締役会に報告しています。

 

2. 戦略

気候変動は、自然災害の激甚化や気象条件の物理的な変化をもたらすほか、脱炭素社会への移行の過程で社会や経済の急激な変化をもたらします。
当社グループは、中期経営計画において、「地球環境との共生~Planetary Health~」、「安心・安全な社会~Resilience~」、「多様な人々の幸福~Well-being~」の3つをサステナビリティの重点課題(マテリアリティ)として定め、社会との共通価値を創造するCSV取組を進めています。気候変動に対するCSV取組は、重点課題「地球環境との共生~Planetary Health~」において、気候変動の影響を最小化し、脱炭素化への移行を支援する取組みを進めています。財務の健全性・収益の安定性を確保しつつ、台風や洪水等の自然災害によって生じた損害に対して保険金をお支払いするとともに、2050年ネットゼロの目標を掲げて、気候変動のリスクを低減するための新しい技術の発展や脱炭素社会への移行を支える取組みと、グループの事業活動に伴う環境負荷を低減する取組みを進め、レジリエントでサステナブルな社会を支えています。

(1)気候関連のリスクと機会

気候関連のリスクや機会は、大規模自然災害のように単年度の収支に影響をもたらすものや、中期、及び長期に発現するものがあることを認識しています。
当社グループは、単年度毎の事業計画に加え、気候関連のリスクや機会を含む様々なリスクと機会を踏まえて、中期の戦略・計画を策定し、取り組んでいます。リスクソリューションのプラットフォーマーとして、気候変動の解決に貢献し、社会と共に成長していきます。

[気候関連のリスク]

当社グループは、気象条件の物理的な変化による影響や脱炭素社会への移行を、事業におけるリスクとして捉え、安定的な収益や財務の健全性確保のための取組みを進めています。大規模自然災害発生時にも円滑に保険金をお支払いできる体制を維持・強化するとともに、防災・減災取組を進め、リスクの軽減を図ります。
TCFDは、気候関連のリスクを物理的リスクと移行リスクの2つに分類しています。
物理的リスクは気候変動の物理的影響に関連したリスクです。更に、リスクが発生する状態に応じて2種類(「台風等の急性の物理的な事象に起因する急性物理的リスク」、「長期的な気候パターンの変化に起因する慢性物理的リスク」)に分類しています。
移行リスクは脱炭素経済への移行に関連するリスクです。リスクをもたらす要因別に、4種類(「気候変動の緩和や適応に対する政策・法規制によるリスク」、「脱炭素社会への移行を支援する技術の革新等によるリスク」、「市場の需要供給の変化によるリスク」、「気候変動への対応に対する社会の評価・評判によるリスク」)に分類しています。
本分類に沿ったリスクは以下の通りです。

 

TCFDの
気候関連リスク分類
事象例 当社グループの
事業活動におけるリスクの例
物理的
リスク
急性 台風・洪水・高潮・豪雨・山火事 ・自然災害の激甚化等による収支の悪化、利益の
ボラティリティ拡大による資本コストの増加
慢性 海面や気温の上昇
少雨や干ばつ等の気象の変化
水等資源供給の減少
伝染病媒介生物の生息地の変化
熱中症の増加
移行
リスク
政策・法規制 炭素価格の上昇
環境関連の規制・基準の強化
エネルギー構成の変化
気候関連の訴訟の増加
・カーボンコストの増加による投資先企業の
業績悪化がもたらす投資リターンの低下
技術 脱炭素技術の進展
低炭素効率商品などの需要減少等による
産業構造の変化
・脱炭素化により変化する市場を捕捉できない
ことによる収益の低下
市場 商品サービスに対する需要と供給の変化
評判 気候変動対応の遅れによる非難 ・不十分な情報開示や気候変動対応の遅れによる
レピュテーションの低下

 

[気候関連の機会]
脱炭素社会への移行による社会や経済の急激な変化は、新たな保険商品・サービスへの需要の喚起や、新しい産業の勃興や技術変革に伴う顧客企業の業績向上など、当社グループの成長につながる機会をもたらすと考えています。TCFDは、気候関連の機会を、「資源の効率性」、「エネルギー源」、「製品・サービス」、「市場」、「レジリエンス」の5つに分類しています。
「資源の効率性」は、エネルギーや資源の効率的な活用に関する機会です。
「エネルギー源」は、低排出型エネルギーの生産や活用に関する機会です。
「製品・サービス」は、低排出型の新たな製品サービスの開発・イノベーションに関する機会です。
「市場」は、新しい市場への開拓に関する機会です。
「レジリエンス」は、気候関連の適応に関する機会です。
本分類に沿った当社グループの事業活動に対する機会は以下の通りです。

TCFDの
気候関連機会の分類
事象例 当社グループの
事業活動に対する機会の例
製品・サービス 低炭素商品・サービスの開発、拡大
進展する気候変動の影響への適応策
R&D、イノベーションによる新製品・サービスの開発
事業活動の多様化
消費者のし好の変化
・顧客企業のビジネスの変革による
新たな補償ニーズの増加
・脱炭素化や防災・減災に関する
コンサルティングニーズの増加
・気候変動に関する市場の拡大
(情報開示、規制対応、緩和策・
適応策の提供等)
市場 新規市場・新興市場の広がり
新しい金融サービスを必要とする資産の発生
レジリエンス 気候変動への適応能力の向上 ・防災・減災ニーズの増加
資源の効率性 モーダルシフト
生産・流通の効率化
ビルの高効率化・高効率ビルへの移転
水使用量と消費量の削減
リサイクルの広まり
・モビリティの電化、建物設備機械の
AI化等による補償ニーズの増加等
エネルギー源 再生可能エネルギー・低排出型エネルギーへの転換
気候変動対策の支援政策・インセンティブの活用
新技術の使用
炭素市場の活用

 

(2)リスクと機会を踏まえた当社グループの取組み

世界気象機関(WMO)によると、2021年の世界の平均気温は、産業革命前(1850~1900年)の平均から約1.1℃上昇しました。地球温暖化が進行していくにつれ、自然災害が激甚化する傾向にあります。日本でも、洪水や土砂災害を引き起こす大雨や短時間強雨の回数が増加しています。地球温暖化の進行を緩和するための取組みが進まない場合、2100年の平均気温は産業革命前から4℃以上上昇する可能性があると言われています。その場合、自然災害による支払保険金が大きく増加する可能性があります。
当社グループは、激甚化する自然災害に備える取組みとともに地球温暖化の進行を緩和する取組みを進めます。

 

[気候変動の緩和への取組み]

当社グループは、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいます。事業活動による温室効果ガス排出量を「2050年ネットゼロ」とする目標を掲げ、ステークホルダーと協力し脱炭素社会への移行に貢献していくことを宣言しました。
2021年5月に経済産業省は「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を定め、鉄鋼、化学、電力、ガス、石油、セメント、紙・パルプ分野におけるトランジション・ファイナンスのロードマップを公表しました。このロードマップでは、省エネ・高効率化、燃料転換等の低炭素取組に加え、将来的な革新技術の採用が示されており、企業はこれを参考に脱炭素化移行を進めていくことになります。
当社グループでは、企業の脱炭素化への移行を推進するため、KPIとして「地球環境との共生~Planetary Health~」に貢献する商品の2025年までの年平均増収率を18%と定め、再生可能エネルギーや水素といった次世代エネルギー、CCUS※、カーボンリサイクルなど、お客さまの革新的技術の確立と社会実装を、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した新たなリスクソリューションによって支援しています。
※Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・有効利用・貯留

 

企業向け「カーボンニュートラルサポート特約」の提供

当社グループの三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、2021年8月から、被災建物等の復旧時に、新たに温室効果ガス排出量削減に繋がる設備等を採用する際の追加費用を補償する「カーボンニュートラルサポート特約(脱炭素化対策費用補償特約)」を提供し、企業の脱炭素化に向けた取組みを支援しています。従来の火災保険においては、一般的な工事や設備修理等、元の状態に復旧する費用までしか保険金をお支払いできませんでした。一方で、脱炭素に向けた取組みの中で、火災や風水災等で損害を被った建物や設備を復旧する場合においても、追加費用をかけて温室効果ガス排出量の削減に繋がる設備等を採用する企業が増えると想定されます。三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、「Build Back Better(創造的復興)※1」の考えを踏まえた脱炭素社会実現への貢献を目的に、本特約を開発しました。
※1災害からの復興において、強靱な対策を講じて、災害に対して、以前に比べてより強いまちづくりを実現するという概念

気候変動のリスクの評価・分析に関するサービス提供・調査研究

当社グループは、気候変動リスクの評価・分析に関した取組みを進めています。気候変動に起因した洪水、干ばつ等の物理的リスクに加え、エネルギー構造の転換等、社会経済が脱炭素社会に移行するリスク(移行リスク)など様々なリスクに企業は晒されています。当社グループのインターリスク総研では、このようなリスクを評価・分析し、TCFDの最終提言に沿って、気候ガバナンス体制構築、シナリオ分析、戦略策定などを支援するサービスを提供しています。
2020年7月には、気候変動リスク分析ベンチャーJupiter Intelligence社と提携し、気候変動による自然災害リスクの影響を全世界対象に90m四方の精度で定量的に評価するサービスの提供を開始しています。

 

 

 

「サステナビリティを考慮した事業活動」の実践

2020年9月に当社グループのサステナビリティへの対応方針として、「サステナビリティを考慮した事業活動」を公表しました。安心と安全を提供する保険・金融グループとして、サステナビリティを考慮した事業活動を実践し、ステークホルダーと対話をしながらサステナビリティに関わる課題への理解をともに深め、その解決に貢献し、企業価値の向上をめざしています。保険引受においては、社会からの要請に応える商品・サービスを提供し、社会や地球環境にマイナスの影響を及ぼす課題やリスクを考慮しています。投融資においては、ESGを考慮し、中長期的な投資リターンの獲得とサステナビリティに関わる課題解決への貢献をめざしています。
この公表の中で、石炭火力発電に関する当社グループの対応を示し、今後新設される石炭火力発電に関する保険引受及び投融資を行わないこととしました。2022年6月には、既設の石炭火力発電所と、主に一般炭を産出する炭鉱の開発と運営に関する新規の保険引受及び投融資も原則行わないこととしました。また、オイルサンドの採掘や北極圏におけるガス・油田採掘に関する保険引受及び投融資については、環境への配慮状況等を踏まえ、慎重に取引の可否を判断することとしました。
顧客企業の気候変動に関連する課題解決に向けた商品やリスク・コンサルティングサービスの提供を通じ、社会全体の脱炭素化を支援していくことは保険事業者としての重要な役割です。当社グループでは、顧客企業に対して気候変動から生じる既存事業のリスクの削減や、脱炭素化に資する新たな事業の構築による収益機会の創出等の課題解決を支援しています。

 

●保険引受における温室効果ガス排出量削減取組

当社グループは、2021年12月に保険引受先の温室効果ガス排出量の計測手法を開発している「Partnership for Carbon Accounting Financials(以下、PCAF)」に加盟しました。2022年6月には、保険引受先の温室効果ガス排出量ネットゼロを目指す、国際的なイニシアティブ「Net-Zero Insurance Alliance(以下、NZIA)」 に加盟し、国際的なルールの策定に参加しています。これらのイニシアティブにおける取組みをもとに、保険引受先の温室効果ガス排出量の計測と目標の設定、顧客企業との対話を通じた脱炭素化支援を進めています。

 

●投融資における温室効果ガス排出量削減取組

脱炭素社会の実現に向けては、建設的な対話(エンゲージメント)を通じ、機関投資家として投融資先企業における温室効果ガス排出量の削減取組とTCFD提言に基づく情報開示を支援しています。
また、気候変動の緩和への積極的な取組みとして、太陽光発電、風力発電やバイオマス発電といった再生可能エネルギーの発電所建設に対するプロジェクトファイナンスやファンドへ投資をしています。また、2021年12月には、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保、三井住友海上あいおい生命、三井住友海上プライマリー生命の4社が合同で気候変動を中心とするインパクトファンドへの投資を開始しました。2022年3月末時点における気候変動を含めた社会課題の解決に繋がるESGテーマ型投融資の残高は、合計で約1,800億円に達しました。グリーン投資に継続的に取り組むことにより、温室効果ガス排出量の大幅削減を実現するイノベーション技術の開発に挑戦する企業を支えています。加えて、企業との脱炭素社会の実現に向けた対話や当社グループの投融資先企業における温室効果ガス排出量の計測・開示を進め、企業の脱炭素化取組を支援し、脱炭素社会の実現に貢献していきます。

 

●バリューチェーン全体で行う温室効果ガス排出量削減取組

脱炭素社会の実現には、事業や社会におけるさまざまなイノベーションが不可欠です。再生可能エネルギーや水素といった次世代エネルギー、CCUS、カーボンリサイクルなど、脱炭素社会に向けた革新的技術の確立と社会実装を、保険商品の提供などを通じて支援していきます。
当社グループのビジネスパートナーである代理店と、デジタル技術の活用等による業務プロセスの変革を進め、非対面での営業やペーパーレス化による代理店業務の省エネ・省資源化を進めています。

温室効果ガス排出量算出・可視化サービスの提供

当社グループの三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、温室効果ガス排出量の算出・可視化クラウドサービス「zeroboard※1」を、保険代理店組織※2に無償で提供し、ビジネスパートナーである保険代理店の脱炭素化経営を支援しています。
2050年ネットゼロの実現には、社会全体の温室効果ガス排出量削減が必要です。当社グループはお客さまや保険代理店等のステークホルダーとともに、バリューチェーンにおける温室効果ガス排出量削減に取り組んでいます。
※1株式会社ゼロボードが提供する温室効果ガス排出量の算出・可視化クラウドサービス。国際的に推奨されている「温室効果ガス(GHG)プロトコル」と呼ばれる基準に基づいた算定が可能。
※2三井住友海上のMITSUI SUMITOMO AGENCIES(MSA)、自動車整備業の保険代理店組織であるアドバンスクラブ。あいおいニッセイ同和損保のあいおいニッセイ同和全国プロ会(プロ会)会員、一部の自動車整備業の保険代理店等。なお、あいおいニッセイ同和損保は全国の中小企業にも同サービスを無償で提供しています。

 

●当社グループの温室効果ガス排出量削減取組

リモートワークや在宅勤務の活用など、ビジネススタイルの変革により、社員の移動やオフィススペースを削減することで、ガソリンや電力の使用量の削減を進めています。また、自社のオフィスビルへの最新鋭の省エネルギー(以下、「省エネ」)設備の導入や太陽光発電設備の設置、社有車の低燃費車両への入替え等により、エネルギー使用量の削減と再生可能エネルギーの導入を進めています。加えて、保険契約のお申込み、保険金のご請求手続き、各種お知らせ等をWeb化することで、紙の使用量の削減も進めています。

 

●自然資本を活用した温室効果ガス排出量削減取組

自然は、気候変動の進展に伴い甚大化する自然災害の脅威や気候の大幅な変化に対し、私たちに多様な解決策をもたらします。当社はTNFD※のメンバーとして、自然に関連したリスクと機会の情報開示に関する枠組策定の議論に参加しています。
また、当社グループでは、2005年よりインドネシアでの熱帯林再生を、2019年より北海道美幌町での植林活動を推進しています。今後もステークホルダーとともに、自然資本の活用による温室効果ガス排出量削減取組を推進していきます。
※Task Force on Nature-related Financial Disclosers : 自然関連財務情報開示タスクフォース

TNFDコンサルテーショングループ・ジャパンの設置

当社グループは、2022年6月に、日本のTNFDフォーラムメンバー※1が参加する「TNFDコンサルテーショングループ・ジャパン(通称:TNFD日本協議会※2)」を設置しました。2023年9月に予定している開示枠組の完成に向けて、TNFDフォーラムメンバーである環境省、金融庁、経団連自然保護協議会等とも連携し、日本から枠組開発に関与しています。
※1開示枠組の開発作業を支援するための、自然や金融等に関する専門性を有する企業や団体からなる組織
※2自然に関連するビジネスや金融のあり方と開示枠組の将来的な採用について議論する、TNFD公認の日本における協議会。オーストラリア、ニュージーランド、インド、オランダ、スイス、英国で、同様の協議会を設置(2022年6月時点)

自然資本・生物多様性の保全・回復に資する商品・サービスの提供

2021年10月に開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の「昆明宣言」では、生物多様性のき損に歯止めをかけ、自然をプラスに増やしていくことを意味するネイチャー・ポジティブ(Nature Positive)の考え方が提唱されました。自然・生物多様性の保全は気候変動への対応とも密接に関連し、例えば、森林は二酸化炭素(CO2)の吸収や洪水防止の機能があります。


当社グループの三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、2022年6月に、自然や生物多様性の保全・回復に資する新たな商品・サービスの提供を開始しました。船舶事故の際に、船舶運航者が自主的に行う自然環境への損害に対する保全・回復活動等の費用を補償する「海洋汚染対応追加費用補償特約」、工場等の施設から生じた不測かつ突発的な汚染に起因する損害賠償責任や汚染の浄化費用等を幅広く補償する「汚染損害拡張補償特約」、再造林等に要する費用を補償する「再造林等費用補償特約」等です。これらの商品は、気候変動への対応にも重要となる海、森、土、動物といった自然にプラスの影響をもたらします。

 

[気候変動への適応に向けた取組み]

当社グループは、財務の健全性を確保したうえで、自然災害に対する補償を提供し、社会に安心・安全をお届けします。また、自然災害による被害や損失をなくす、または軽減するためのサービスを提供することで、気候変動への適応を進めています。
気候変動によって自然災害が激甚化した場合、支払保険金が増加するとともに、再保険料の高騰にもつながることから、当社グループは、キャットボンド(自然災害の発生時に資金を受け取れる機能を組み込んだ債券)等の再保険代替手法の活用や異常危険準備金の積立て等を実施しています。
また、当社グループの三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、2019年度より、2社共通の再保険特約を導入しており、自然災害による保険金支払いが年度を通じて多額に及んだ場合でも、再保険により当社グループ全体の期間損益の安定性が保たれるようにしています。
そして、激甚化する自然災害に備えて、AIを活用した気象・災害データ分析サービスや、災害の予防や回復・適応力を高める取組みも進めています。自然災害が発生した場合には、AIやドローンを活用した損害調査の実施等の効率的な支払業務態勢を構築し、被害にあわれたお客さまに、いち早く保険金をお支払いしています。
引き続き、気候変動の影響も踏まえて、リスクの保有量をコントロールし、財務の健全性の維持に必要な資本を確保していきます。また、海外事業や生命保険事業を拡大することで、リスクを地理的・事業的に分散させ、より安定的な収益基盤を構築します。

自然災害のリアルタイム被害予測ウェブサイト・アプリ「cmap(シーマップ)」の無償提供

当社グループのあいおいニッセイ同和損保は、2019年6月から、台風・豪雨・地震による被害が発生した際、被災建物予測棟数・被災率を市区町村毎に予測し、リアルタイムで地図上に表示する世界初のWebサイト「cmap(シーマップ)」を提供しています。同サイトでは、平時でも、過去に発生した主な台風・豪雨・地震を用いたシミュレーションや、世界中の気象情報を確認することができます。地域の皆さまにもご利用頂けるよう一般公開しており、パソコンやスマートフォンなど、あらゆるデバイスから24時間365日どなたでも閲覧いただくことができます。
また、cmapアプリでは2022年3月から、災害発生時に移動が困難な方が安心・安全・簡便に避難できることをめざし、一般社団法人WheeLogが提供するバリアフリー情報を閲覧できるサービスを提供しています。

気象・災害データ×AIによる防災・減災支援システムの提供

当社グループの三井住友海上とインターリスク総研は、自治体向け防災・減災支援システム「防災ダッシュボード」を共同開発し、2022年4月から、全国希望自治体にて無償トライアル開始、2023年4月本格展開開始を予定しており、全国の自治体の防災・減災対策を支援しています。
自然災害が頻発化・激甚化する中、防災・減災の対策は重要な社会課題です。特に自治体は、地域住民の被害を軽減するため、事前に住民の避難誘導を行うなどのさまざまな措置を的確に行うことが求められます。
当社グループは「防災ダッシュボード」の提供を通じて、災害リスクにつながるリアルタイム気象データ、30時間以上先の洪水予測データ、発災後のAIによる被害推定をわかりやすく一元的に可視化し、住民の生命や財産を守るための地域社会における防災・減災対策を支援しています。

 

(3)シナリオ分析

気候変動の物理的リスクや移行リスクは、将来、当社グループの事業にさまざまな影響を与える可能性があります。当社グループでは、自然災害被害を補償する保険引受にかかる影響(物理的リスク)と、温暖化対策の導入による投資にかかる影響(移行リスク)について、それぞれシナリオ分析を実施しました。
物理的リスクの分析では、温暖化の進行に伴って勢力等が変化した台風による支払保険金の上昇幅を分析し、支払保険金が増加する可能性があることを確認しました。また、移行リスクの分析では、温暖化対策の進展に応じて投資先企業が追加負担する可能性のあるコストについて分析し、投資先企業が温暖化対策を進めることで追加コスト額を抑制できる可能性があることを確認しました。
なお、分析にあたっては、気候変動の影響は、大きさや発生時期等の不確実性が高いことから、さまざまな前提や仮定を置いています。物理的リスクの分析では気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオに、移行リスクの分析では国際エネルギー機関(IEA)のシナリオに基づいて分析しています。
当社グループは、気候変動の緩和と適応への取組みや科学的知見の更新等を踏まえ、今後も継続的なシナリオ分析の見直しと高度化に取り組みます。

 

[保険引受のシナリオ分析(物理的リスク分析)]

温暖化が進むと、台風などの自然災害が激甚化し、被害が増加するリスクがあります。そのため、物理的リスクのシナリオ分析として、台風の変化が支払保険金に与える影響について分析しました。
国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が2018年度に立ち上げた将来の気候変動が保険引受に影響を与えるフォワードルッキングなシナリオ分析を行うための手法を検討するプロジェクトに、当社を含む持続可能な保険原則(PSI)の署名保険会社20社以上のメンバーが参画し、分析対象とする気候変動の影響毎にグループに分かれてシナリオ分析手法の開発に取り組みました。

当社は、保険引受に与える影響が大きい台風やハリケーンの分析を行うグループに参画し、将来、温暖化が進展した際に、台風やハリケーンがもたらすリスク量等への影響について検討しました。気候変動による台風自体の「勢力」と「発生頻度」の変化に着目し、これらに関するKnutson et al. (2020)の研究成果を参照して、4℃シナリオ(RCP8.5) における2050年を対象とした分析評価ツールを開発しました。
また、台風による高潮の変化についても、世界資源研究所(WRI)による高潮被害等を評価するツール(Aqueduct Flood)を参照して、2℃シナリオ(RCP4.5)及び4℃シナリオ(RCP8.5)における2030年及び2050年を対象とした分析評価ツールを開発しました。
開発した2つの分析評価ツールを使用した当社グループの分析結果は以下のとおりです。なお、本分析では、台風により保険金の支払いが想定される国内の損害保険契約(火災保険、海上保険、傷害保険、自動車保険等)を対象としています。


●台風自体の変化
4℃シナリオ(RCP8.5)における2050年において、台風の支払保険金は、「勢力」の変化によって約+5%~約+50%、また、「発生頻度」の変化によって約▲30%~約+28%、各々変化する可能性があるという結果になりました。

●台風による高潮の変化
2℃シナリオ(RCP4.5)、4℃シナリオ(RCP8.5)における2030年及び2050年においては、いずれの場合でも、支払保険金は数%程度増加する可能性があるという結果となりました。

2021年度には、上記の分析とは別に、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)で検討されているシナリオの前提等を参考として、日本銀行・金融庁と連携して、シナリオ分析のエクササイズを実施し、気候変動影響によって勢力が強まった自然災害による被害額について分析を行いました。
また、上記に加えて、当社グループでは、学術機関と連携したプロジェクトを通じた研究等により知見の向上に努めるとともに、気候変動による台風の勢力変化を反映した分析手法を構築するなど、シナリオ分析の精度向上に取り組んでいます。
引き続き、UNEP FIのプロジェクトに基づく分析手法やNGFSが公表する情報等も参考にしつつ、台風や洪水等の気候変動の影響を評価する手法の検討を進めていきます。

 

[投資のシナリオ分析(移行リスク分析)]
温室効果ガスの排出量に応じた費用を負担する「カーボンプライシング」(炭素の価格付け)は、温室効果ガス排出の削減を促す政策として世界で導入が進んでおり、企業にとってはカーボンコストの負担が増加するリスクがあります。そのため、移行リスクのシナリオ分析として、将来のカーボンコストによる負担増加が当社グループの投資ポートフォリオに与える影響について分析しました。
分析にあたっては、炭素排出量をはじめとする環境データや気候変動のリスクを分析しているTrucost社の分析ツールを使用し、投資先企業が将来負担するカーボンコストに対して、現時点でどの程度支払う能力(カーボンアーニングアットリスク(EBIT at Risk )※1)があるのかを算出しました。
※1企業のカーボンコストの将来負担増加分(Unpriced Cost of Carbon:UCC)を企業の利益(Earnings Before Interest and Taxes:EBIT)で割ったもので、シナリオ毎の投資ポートフォリオに与える財務的な影響を示しています。

また、TCFDが2℃以下を含む異なるシナリオに基づく分析を推奨していることを踏まえ、当社グループでは、2100年までに気温上昇を2℃未満に抑えるという国際目標(パリ協定)と整合する十分な政策手段が講じられるシナリオを「高位シナリオ」、気温上昇を2℃に抑えるための政策が長期的には講じられるものの、短期的には政策実施が遅れることを想定したシナリオを「中位シナリオ」、各国が自主的に定めた目標を実施するものの、気温上昇が3℃程度となるシナリオを「低位シナリオ」とし、3つのシナリオに基づいて分析しました。
なお、分析対象※2は、当社グループの2021年3月末の投資ポートフォリオのうち、国内外上場株式(時価ベースで国内外上場株式の約98%をカバー)と国内外社債(同じく国内外社債の約68%をカバー)としています。また、企業の利益については、財務パフォーマンスの変動を緩和するため直近3か年平均値を用いており、温室効果ガス排出量については、投資先企業が直接排出したスコープ1と、電力・ガスなどの使用によって間接排出したスコープ2を対象としています。

※2下表のとおり、2022年度に実施した分析対象は、2021年度から拡大しています。

対象 2022年度に実施した分析
(2021年3月末ポートフォリオ)
2021年度に実施した分析
(2020年3月末ポートフォリオ)
株式 国内外上場株式(自社運用及び外部委託) 国内上場株式(自社運用)
社債 国内外社債(自社運用及び外部委託) 国内外社債(自社運用及び一部外部委託)

分析結果は下表のとおりであり、より大きい政策手段が講じられる高位シナリオや中位シナリオでは、カーボンコストの負担が大きくなり、移行リスクが大きくなることになります。当社グループの2021年3月末の投資ポートフォリオでは、2050年にカーボンアーニングアットリスクが、株式では低位シナリオで約8%、中位・高位シナリオで約30%、社債では低位シナリオで約16%、中位・高位シナリオで約55%程度となる可能性があるとの分析結果となりました。

 

●MS&ADグループカーボンアーニングアットリスク(EBIT at Risk)

<株式(2021年3月末時点)>

低位シナリオ 中位シナリオ 高位シナリオ
2030年 4.0% 8.1% 17.5%
2040年 6.5% 12.8% 26.4%
2050年 7.6% 30.0% 30.0%

<社債(2021年3月末時点)>

低位シナリオ 中位シナリオ 高位シナリオ
2030年 8.9% 16.4% 33.5%
2040年 13.7% 24.8% 49.1%
2050年 15.6% 55.4% 55.4%

この分析は、投資先企業における現在の温室効果ガス排出量をもとに実施したものです。投資先企業が脱炭素の取組みを進めていけば、その投資先企業が負担するカーボンコストは低下し、将来のカーボンアーニングアットリスクも低減します。引き続き、投資先企業とのエンゲージメント等を通じて、投資ポートフォリオへの影響の緩和を図っていきます。

3. リスク管理

当社グループは「MS&ADインシュアランス グループ リスク選好方針」に基づき、経営ビジョン実現のために、平常時に保有可能なリスク量を明確にしたうえで、資本政策に基づくリスクテイクを行うこととしています。リスク選好方針に沿った具体策としてグループ中期経営計画を策定し、ERMサイクルをベースに、健全性の確保、資本効率およびリスク対比のリターンの向上を目指しています。
保険引受リスクについては、成長戦略を推進し、積極的にリスクテイクを行うこととし、適切な保険条件の設定、自然災害リスクの適切なコントロールを行い、リターンの拡大を目指しています。
資産運用リスクについては、負債特性を踏まえた資産負債の総合管理及び政策株式の削減を実施し、資産の健全性と流動性を確保しつつ、リターンの拡大を目指しています。
当社グループのリスク管理に関しては、「MS&ADインシュアランス グループリスク管理基本方針」に基づき、気候関連を含めたリスクを認識した上で、リスクの大きさや発現の可能性を定量的に把握し、その範囲・程度の最適化を図るとともに、保有・移転・回避等によりリスクを処理し、その効果検証を行い、結果を踏まえて処理方法を改善しています。また、リスクの状況等につき、経営会議体等へ適宜報告しています。気候関連のリスクに関する事項についても、ERM委員会で論議の上、グループ経営会議や取締役会に報告しています。
当社グループでは、経営が管理すべきリスクを「グループ重要リスク」として管理取組計画を策定しており、気候変動はグループ重要リスクとして管理しています。具体的には、気候変動は、「大規模自然災害の発生」等のグループ重要リスクの多くに影響を与えるリスク事象であるため、下表のとおり他のグループ重要リスクと気候変動を関連付けるとともに、気候変動による「主な想定シナリオ」を設定して管理し、中長期的にわたって定期的なモニタリングを行っています。


●ERMサイクル

●気候変動に関連するグループ重要リスクと主な想定シナリオ

気候変動に関連するグループ重要リスク
気候変動に関連する主な想定シナリオ
大規模自然災害の発生 気候変動の影響も受けた発生確率・規模等の変化
金融マーケットの大幅な変動 企業の気候変動への対応に伴う「移行リスク」の顕在化(環境関連の政策・規制の強化、脱炭素技術の進展、訴訟の増加等)による当社グループの保有資産の価値下落
信用リスクの大幅な増加
グループの企業価値の著しい毀損や社会的信用の失墜につながる行為の発生 気候変動対応等のサステナビリティに関わる課題への対応不備やそれに伴う訴訟等による評判の低下や財務的な負担
システム障害の多発や重大なシステム障害の発生・大規模システムの開発計画の進捗遅延・未達・予算超過・期待効果未実現 大規模自然災害の発生等によりシステム関連施設が罹災することによるビジネス・サービスの停滞
新型インフルエンザ等の感染症の大流行 地球温暖化や気候の変化に起因する感染地域の拡大
保険市場の変化 気候変動への対応による市場規模・構造の変化


(1)自然災害リスクの管理

当社グループでは、主に気象学や建築学といった工学的な知見を取り入れたモデルを使用して、保険の補償対象となる自然災害について地域別・災害別にリスク量を計測・把握することで、自然災害リスクを管理しています。これらのリスクのうち、気候変動の影響を受ける自然災害としては、台風、洪水、森林火災等があります。
大規模自然災害のストレステストの実施に加えて、リスク量の大きい国内風水災及び米国風水災リスクに対しては、200年に1度の確率で発生する損害額を基準に、グループ及び各社別にリスク量の上限(リスクリミット)を設定して、財務の健全性の維持を図っています。
また、自然災害リスクに関する知見を持つ外部機関とも連携して、直近の学術的知見や自然災害の発生状況を踏まえてモデルを高度化する取組みを進めています。
さらに、これまで蓄積してきた知見等を活用して、気候変動の影響をストレステストに織り込むことや、気候変動にかかる不確実性を当社グループ全体のリスク量に反映すること等にも取り組んでいます。

ストレステストについて

各種のストレス事象の発生時に、資本とリスク量に与える影響等を確認するために、ストレステストを実施しています。
ストレステストでは、統計的手法によるリスク計測の限界を補完するため、当社グループのポートフォリオやリスク特性をもとに、外部環境の大幅な変化等を踏まえて選定したシナリオを用いることにより、ポートフォリオの脆弱性を洗い出し、対策の必要性や緊急性を確認しています。
「連続した台風の発生」「複数河川の氾濫」といった、より強いストレスを想定したテストや、「国内の台風」「国内の水災」「北米のハリケーン」に対する長期的な気候変動による影響を想定した試算を行っています。


(2)自然災害のリスク保有量のコントロール
地域別、災害別のリスク量を踏まえて、適切な保険引受に努めるとともに、再保険調達やキャットボンドの発行、異常危険準備金の積立てを行っています。これらにより、グループ全体での財務健全性の向上と期間損益の変動リスクの低減を図っています。

グループ全体での自然災害のコントロールに関する取組み

グループとして国内・海外の自然災害リスクについてリスク量の正味保有水準(以下、「ガイドライン」)を設定し、そのガイドラインに基づいて、再保険(出再・受再)方針の策定や再保険の調達・引受を行い、結果としてのリスク量がガイドライン内に収まっていることを確認するという年間プロセスにより自然災害リスクのコントロールに取り組んでいます。

 

期間損益の変動リスクの低減に関する取組み

国内自然災害については、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保のそれぞれの再保険に加え、両社合計の年間累計損害額を対象とした共同の再保険を確保しています。国内自然災害の発生に対して効果的に機能しており、2022年度も同様の機能を有する再保険を確保して、期間損益の変動リスクを低減しています。
海外自然災害については、リスクを削減し、期間損益への影響を▲20%程度削減する方針としています


(3)保険引受における訴訟リスク
気候変動に関する訴訟の頻発化によって、訴訟リスクを補償する賠償責任保険の保険金支払が増加する可能性があります。賠償責任保険は、お客さま(以下、「被保険者」)が賠償責任を負う場合の損害賠償金、訴訟対応で支出した争訟費用等をお支払いする保険です。気候変動に関連して提起される訴訟リスクを補償できる可能性のある主な賠償責任保険商品は次のとおりです。

保険商品 補償内容 気候変動に関する訴訟リスク
施設所有(管理)者賠償責任保険 被保険者が所有、使用もしくは管理している施設や被保険者の業務活動に起因して、他人の身体の障害または財物の損壊が発生した場合に、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担したことによって被る損害(損害賠償金や争訟費用等)に対して保険金をお支払いします。 被保険者が行う事業活動の中で、気候変動による被害を防止・低減する対策を怠った等の理由で、被保険者に対して訴訟が起こされる可能性があります。
会社役員賠償責任保険(D&O保険) 被保険者である会社役員が役員として行った行為(含む不作為)に起因して損害賠償請求がなされたことにより、会社役員が負う損害賠償金や争訟費用等を保険金としてお支払いします。 企業等の気候変動に対する取組みの遅れ・不備や、不十分な情報開示等の理由で、被保険者である会社役員に対して訴訟が起こされる可能性があります。なお、気候変動への行動変革を促すことを目的とした訴訟も見受けられます。

当社グループでは、保険引受における気候変動に関する訴訟リスクを、グループ重要リスクの「気候変動」に含めて管理し、これらの保険商品の引受状況、訴訟の発生状況等によりリスク状況を把握しています。また、関連するリスク事象の中長期的な動向を把握するため、グループエマージングリスクの1つとして「自然資本のき損(資源の枯渇、生態系の劣化・危機、環境に甚大な損害を与える人為的な汚染や事故)」について、その状況をモニタリングしています。

 

(4)責任ある機関投資家として

金融庁が公表する「責任ある機関投資家」の諸原則「日本版スチュワードシップ・コード」は、日本の上場株式等に投資する機関投資家を対象とした行動規範であり、当社グループはアセットオーナーとしてこの趣旨に賛同しています。
当社グループは、「日本版スチュワードシップ・コード」に沿い、投資先企業の企業価値向上や持続的成長を中長期的に促す観点から、投資先企業と経営上の課題や株主還元方針、ESGなどの非財務情報の把握に重点を置いた「建設的な対話(エンゲージメント)」を行う方針としています。この対話の中で、投資先のESG方針を確認しており、E(環境)に関する主な質問項目として、気候変動や脱炭素社会に向けた対応を盛り込んでいます。

 

<気候変動に関する建設的な対話(エンゲージメント)の取組事例>

取組事例1 取組事例2
ESGへの取組みを強化している物流企業と対話を行い、ESG情報開示の在り方などについて意見交換を行いました。該社は環境にやさしい車両の導入や 鉄道・船舶・トラックなどの輸送を組み合わせたモーダルシフトによる省エネ ルギー化に積極的に取り組んでおり、これらの取組みを投資家に正しく評価してもらうためにも目標や実績などの適切な開示を行うことを提案しました。 環境に配慮した取組みとして、自社製品の製造工程の見直しを通じ、石化原料の使用量削減を着実に実施していることを確認しました。また、バイオマス発電の利用目標率を取組課題として設定したものの、発電原料の安定供給やコスト高が課題となっていることを確認しました。

4. 指標・目標

(1)リスクと機会に関する指標

●「社会との共通価値の創造(CSV取組)」に関する指標
「気候変動の緩和と適応に貢献する」商品開発・改定等をモニタリング指標としています。取組結果は取締役の業績連動報酬に反映しています。

●気候変動への対応に貢献する商品・サービスに関する指標
気候変動に関するリスクを対象とした商品・サービスの提供を加速するため、中期経営計画のKPIとして、「地球環境との共生~Planetary Health~に貢献する商品・サービス」における2025年までの年平均増収率18%を設定しました。

項目 対象範囲 目標 2021年度
地球環境との共生~Planetary Health~に貢献する商品・サービス グループ国内+その他関連会社 年平均
増収18%
19.98%

●保険引受での自然災害リスクに関する指標
200年に1度の確率で発生するリスク量を指標としています。

●気候変動への対応を含むESGテーマ型投資に関する指標
脱炭素化への移行には、温室効果ガス排出量の大幅な削減に向けた技術革新や設備投資が必要であり、関連産業での資金需要の拡大や新たな金融商品・サービスへのニーズの拡大等は、金融機関にとっての機会となり得ます。当社グループは、気候変動を含む社会課題の解決に繋がるテーマなど、収益性の確保を前提としたESGテーマ型投資に取り組んでいます。

【単位:億円】
投融資先 2022年3月末
投融資残高 新規投融資額
グリーン/ソーシャル/サステナビリティボンド 1,031 +361
トランジションボンド・ローン 12 +12
再生可能エネルギー(太陽光、風力、水素等) 263 +69
インパクト投資、ESG全般、地方創生 151 +87
国際機関債 374 +63
合計 1,832 +593

●気候変動への対応を含むベンチャー投資に関する指標
TCFDに対応するAIベースの気候変動リスク評価を提供するJupiter社をはじめ、気候変動への対応を含むベンチャー投資により、脱炭素化に有効な最先端技術を有するイノベーションパートナーとの連携・共同を進めています。

項目 2022年3月末
MS&ADグループのMS&ADベンチャーズによる投資件数(うち気候変動) 63件(5件)

(2)当社グループの事業活動に伴う環境負荷実績

●当社グループの事業活動による温室効果ガス排出量、エネルギー使用量等

(3)当社グループの事業活動に伴う環境負荷削減目標と指標

●取組目標
当社グループは、2010年度に温室効果ガス排出量削減の中長期目標を設定し、事業活動において排出される温室効果ガス排出量の削減に取り組んできました。2020年度温室効果ガス排出量削減目標(2009年度基準比30%削減)の達成を踏まえて中長期目標を見直し、2021年5月、パリ協定に沿った新たな目標を設定しました。

<温室効果ガス排出量削減目標>

対象 2030年度 2050年度
スコープ1・2※1 基準年度(2019年)比▲50% ネットゼロ
スコープ3※2 基準年度(2019年)比▲50%
(カテゴリ1・3・5・6・7・13)
ネットゼロ
(全カテゴリ)

※1 スコープ1は社有車のガソリン等、当社グループが直接排出するもの、スコープ2は電力・ガス等の使用により間接排出するもの。
※2 当社グループの事業を通じて間接的に排出するもののうち、スコープ2以外のもの。カテゴリ1は購入した製品・サービス(対象:紙・郵送)、カテゴリ3はスコープ1、2以外の燃料及びエネルギー活動、カテゴリ5は事業から出る廃棄物、カテゴリ6は従業員の出張、カテゴリ7は 従業員の通勤、カテゴリ13 リース資産

<再生可能エネルギー導入率>

目標年 再生可能エネルギー導入率
2030年度 60%
2050年度 100%


●指標
総エネルギー使用量とCO2排出量の削減率をモニタリング指標として事業活動による環境負荷の削減に取り組んでいます。

(4)投資先企業の温室効果ガス排出量

投資先企業のカーボンフットプリント(事業活動に伴って排出される温室効果ガスのCO2換算量)は下表のとおりです。投資先企業の開示情報や、使用可能な開示情報がない場合はモデリングによる独自アプローチにより温室効果ガス排出量を算出するTrucost社の分析ツールを使用して、投資先企業のスコープ1及びスコープ2を対象に算出しています。当社グループの2021年3月末の投資ポートフォリオのうち、国内外上場株式(時価ベースで国内外上場株式の約98%をカバー)と国内外社債(同じく国内外社債の約68%をカバー)を分析対象としています。
なお、2021年10月のTCFD提言の改定に伴い、投資先企業の温室効果ガス排出量の計測はPCAFによる基準を採用しています。

 

<投資先企業の温室効果ガス排出量>

(単位:千t-CO2e)
2021年3末時点 株式 社債
投資先企業のスコープ1+スコープ2 2,453 2,410

(5)投資先の加重平均カーボンインテンシティ(WACI)

保有ポートフォリオの炭素強度指標として加重平均カーボンインテンシティ(WACI)を採用しています。Trucost社のツールを使用してスコープ1及びスコープ2を対象に算出しています。なお、分析対象は「(4)投資先企業の温室効果ガス排出量」と同様です。

<投資先企業の加重平均カーボンインテンシティ(WACI)>

(単位:t-CO2e/百万米ドル)
2021年3末時点 株式 社債
投資先企業のスコープ1+スコープ2 129.5 139.5

(6)気候関連の役員報酬

当社グループは、中長期の業績に寄与する取組みとして、社外取締役を除く役員の業績連動報酬に非財務指標を反映しています。気候変動に対する取組みは、この指標の評価に含まれています。
業績連動報酬の報酬に対する標準割合は、取締役社長50%、その他の役員は約30~40%です。