ERMをベースにしたグループ経営

当社グループでは、ERM(Enterprise Risk Management)サイクルをグループ経営のベースにおき、健全性の確保を前提として、収益力及び資本効率の向上のための取組みを行っています。リスク選好方針等を踏まえて各事業への資本配賦を行い、配賦した資本を活用してリスクテイクを実施し、ROR(Return On Risk)等のモニタリングを通じて、適切なリスクコントロールを行っています。中期経営計画(2022-2025)では、ERM委員会を中心に、資本・リスク・リターンを踏まえた、グループ各事業の評価・管理の高度化に取り組むとともに、成長事業への投資など、より資本効率の高い事業機会への資本配賦を機動的に実施し、グループの資本効率の向上を図っていきます。

リスク・リターン・資本の一体管理

経営ビジョンを実現するため、グループリスク選好方針に沿った中期経営計画を策定の上、ERMサイクルをベースにリスク(統合リスク量)・リターン(グループ修正利益)・資本(時価純資産)を一体的に管理し、健全性の確保、資本効率及びリスク対比リターンの向上を図っています。

 

 

 

ERMサイクル

拡大

グループリスク選好方針とERM取組

経営ビジョンを実現するため、資本政策やリスク選好等に関する取組の方向性および基本的な考え方を取締役会で決定するグループリスク選好方針に定め、リスク・リターン・資本を一体的に管理しています。
また、グループリスク選好方針に沿ったグループ中期経営計画を策定し、ERMサイクルを通じ、健全性の確保、資本効率およびリスク対比リターンの向上を目指しています。
加えて、各事業の資本配賦額の設定やグループの収支計画の策定にあたり、グループリスク選好方針と整合することを確認しています。
グループリスク選好方針の見直しは、ストレステストの結果や環境変化等を踏まえ、定期的に要否を確認しています。

収益性向上に向けた取組み

健全性を確保しながら、資本効率を高めていくため、当社グループでは、各事業ドメインでの下記の取組みを通じて、適切なリスク・リターンの確保を図っています。

RORの推移

リスク管理の実行と推進

当社グループでは、「MS&ADインシュアランス グループ リスク管理基本方針」を定め、グループ内で共有された基本的な考え方のもとでリスク管理を実行しています。具体的には、当社グループに影響をおよぼすリスク事象を洗い出し、
そのリスク要因を定量・定性の両面から評価することによって、リスク管理を推進しています。

・リスク管理基本方針
・リスク管理体制
・3線によるリスク管理
・保険事業のリスク
・海外事業のリスク管理態勢
・危機管理体制(事業継続計画を含む)

 

リスクの特定・管理

当社グループでは経営が管理すべき重要なリスク事象を「グループ重要リスク」として選定し、その発現シナリオを「気候変動」等にも留意して想定したうえで、管理取組計画を策定するとともに、各リスクの状況を定期的にモニタリングし、リスクのコントロールに取り組んでいます。

No.

2025年度グループ重要リスク
(点線枠内は「主な想定シナリオ」/「留意事項」は主な想定シナリオの策定において留意する事項)

1

大規模自然災害の発生

(留意事項:気候変動)
・気候変動の影響も受けた国内及び海外の大規模な風水災・森林火災・雪雹災・干ばつや地震・噴火等の発生による保険金支払の増加
・大規模自然災害の発生等に伴う出再保険料の高騰や再保険会社の引受キャパシティの減少等により、方針どおりのリスクコントロールが困難になる事態の発生
・大規模自然災害の発生により当社グループが適切にビジネス・サービスを実行できない状態の発生

2

金融マーケットの大幅な変動
(留意事項:インフレーション)

・世界的な景気・経済活動の停滞懸念による株式等の保有資産価値の下落
・物価動向等を踏まえた各国の金融政策の変更や財政規律の欠如に伴う各国の国債の格下げ等に伴う金利・為替の変動による資本余力の低下

3

信用リスクの大幅な増加
(留意事項:気候変動)

・実体経済の悪化や金利上昇、金融機関による与信の厳格化、脱炭素社会への移行に向けた規制の強化・対応の遅延等による投融資先企業の業績悪化やデフォルト
・世界経済の減速懸念等に伴う投資家のリスク回避姿勢の強まり等による保有債券等の価値の下落

4

グループの企業価値の著しい毀損や社会的信用の失墜につながる行為の発生
(留意事項:コンダクトリスク、デジタライゼーション、気候変動、人権)

※企業価値の著しい毀損や社会的信用の失墜につながる行為とは、法令等に違反する行為、お客さま等のステークホルダーの視点が欠如した行為、社会規範等から逸脱した行為、当社グループの行動指針等に反する行為等(いずれも不作為によるものや業界等の慣行に基づくものを含む)をいう。
・当社グループの経営理念等(ミッション・ビジョン・バリュー、お客さま第一の業務運営等)が当社グループの業務運営における役職員等の行動にまで浸透せず、お客さま本位や健全な競争環境等の実現ができないことによる当社グループの社会的信用の失墜
・業界慣行や当社グループ内の行動目標(経営目標や営業・損害サービスに関する目標等)、社員等の評価制度(人事制度・代理店評価制度等)等に基づく行動がお客さま等の視点を欠くことによる当社グループの社会的信用の失墜
・商品・サービス(事務・システムを含む)の設計がお客さま等の視点(ニーズ・適合性・利便性・わかりやすさ等)を欠くことによるお客さまの不利益の発生
・グループ戦略遂行上の組織改編・業務変革・システム開発に伴う業務混乱やそれに起因する苦情の増加
・国内関係法令等及び事業を営む海外現地の法令等への違反(不正競争や不当な取引制限、優越的地位の濫用を含む)、長時間労働・ハラスメント等の重大な労務問題等の発生
・当社グループ(受入出向者を含む)又は外部委託先(代理店や社外出向者を含む)等における情報漏えい等の発生
・生成AIの活用推進・規制変更・社会的な認識の変化等に伴う権利侵害・不適切な情報開示・関係当局等が策定するガイドライン等への抵触・評判の低下等の発生
・当社グループにおける気候変動対応等のサステナビリティに関わる開示や課題への対応不備、事業活動の過程(取引先等を含む)で生じる人権等の権利侵害、それらに訴訟等による評判の低下や財務的な負担
・財務報告に係る内部統制の重大な不備、国際財務報告基準(IFRS)ベースの連結財務諸表の開示や経済価値ベースの資本規制の導入に向けた態勢整備の遅延・不備等による開示情報の重大な誤りの発生

5

サイバー攻撃による大規模・重大な業務の停滞・情報漏えい
(留意事項:デジタライゼーション)

・デジタライゼーションの進展等に伴う世界的なサイバー攻撃被害の拡大、サイバー攻撃の巧妙化・多様化(技術進展が著しい生成AI等を利用したものを含む)、クラウドの活用やサプライチェーンの拡大に伴うサイバー攻撃による影響範囲の拡大等による当社グループ及び外部委託先等における業務の停滞・情報漏えいの発生

6

システム障害の多発や重大なシステム障害の発生、大規模システム開発の進捗遅延・未達・予算超過・期待効果未実現
(留意事項:デジタライゼーション)

・デジタライゼーションの進展に伴うお客さま・代理店向けシステムにおける障害の複数同時発生、大規模自然災害の発生等に伴うシステム関連施設の罹災、資金決済インフラの停止、宇宙天気現象の影響も懸念される通信衛星・通信回線の不具合・事故等に伴う通信障害によるビジネス・サービスの停滞
・休日や営業時間外に稼働するお客さま・代理店向けシステムの大規模な障害発生によるお客さま等への対応の遅れ
・大規模システム開発の進捗遅延・未達・予算超過・期待効果未実現による経営計画の未達成

7

新型インフルエンザ等の感染症の大流行
(留意事項:気候変動)

・地球温暖化の影響も受けた新種の感染症の大流行・影響長期化等に伴い当社グループが適切にビジネス・サービスを実行できない状態の発生
・世界的な感染拡大による保険金・給付金支払の増加や感染症の影響長期化に伴う経済活動の長期停滞等による収益の低下

8

保険市場の変化
(留意事項:デジタライゼーション、気候変動、少子高齢化、インフレーション)

・業界慣行の見直しや環境変化(お客さまの意識や社会的要請の変化を含む)に応じたビジネスモデル(販売チャネルを含む)・ビジネススタイルの変革が想定通りに実行できないことによる保険市場での競争劣位
・運転支援・自動運転技術の進展による自動車事故の減少等による収益構造への影響
・補償・保障前後のサービス拡大に伴うアプリ・システム・IoT機器等の不具合、業務委託先・事業提携先の不正・事務ミスによる風評被害、機器等の供給制約等による販売戦略への影響
・低炭素・脱炭素技術等の気候変動への対応に係る新たな保険引受、循環型社会の進展や化学物質等の健康被害・環境被害等による保険金支払の増加
・少子高齢化の進展・人口減少等に伴う市場規模・構造の変化による事業ポートフォリオへの影響
・外部環境変化(社会的要請の変化、企業等の建物・設備の老朽化、気候変動リスクやサイバーリスクといった国・地域をまたがるリスクの出現を含む)に伴うリスクの高まり・集積やインフレ(ソーシャル・インフレーションを含む)等による保険金・事業費の増加

9

人財を取り巻く環境の変化
(留意事項:少子高齢化、デジタライゼーション)

・人財市場・労働需給等の外的な変化やDX推進・海外事業等の戦略実行に必要なスキル・専門性の変化等による、経営戦略と人財ポートフォリオのギャップ及びその解消に向けた人財の確保・育成の不足
・自律的なキャリア形成機会・柔軟で多様な働き方・人権や多様性の尊重等に対する社員の意識の変化を的確に捉えた環境整備(労働条件を含む)やハラスメント(カスタマーハラスメントを含む)に対する組織的対応の不足による社員のエンゲージメントの低下や人財の流出、採用力の低下

10

国家間・他国内等での対立激化や政治・経済・社会的な分断・分極化、安全保障の危機
・国家間・他国内等での対立激化や政治・経済・社会的な分断・分極化(各国大統領等のグローバルリーダーの交替やグローバルサウスの台頭等に伴うものを含む)等に伴う金融市場の変動による保有資産価値の下落
・各国の経済安全保障関連規制の強化等によるサプライチェーンの分断等に伴う実体経済の悪化等による投融資先企業の業績悪化やデフォルト
・当社グループ又は外部委託先等における経済安全保障上の問題等による当社グループの評判の低下
・大国間の対立激化等に伴う世界的なサイバー攻撃被害の拡大等による当社グループ及び外部委託先等における業務の停滞・情報漏えいや、サイバーセキュリティ関連法規制の強化による財務的な負担等の発生
・大国間の対立激化や保護主義の台頭等に伴う規制変更や軍事的行動等による特定の国や地域での事業の制限・中断・撤退(人的被害を含む)、戦争危険等を担保する特約等の保険金支払の発生、課税強化による財務的な負担

中長期的に当社グループ経営に影響を与える可能性のある事象や、現時点ではその影響の大きさや発生時期の把握が難しいものの認識しておくべき事象を、次のとおりグループエマージングリスクとして定期的にモニタリングしています。

自然災害のリスク保有量のコントロール