ERMをベースにしたグループ経営

ERM(Enterprise Risk Management)は、保険会社の経営において重要な収益(リターン)、リスク、資本という3つの経営指標をバランスよく管理していく機能を担っています。MS&ADインシュアランス グループでは、ERM推進を前中期経営計画「Next Challenge 2017」の推進ドライバーの1つとして取り組み、グループ経営の基盤として確立させました。
新中期経営計画「Vision 2021」においても、ERMサイクルをグループ経営のベースにおき、健全性の確保を前提に、収益力と資本効率の向上のための取り組みを強化していきます。

ERMの機能と役割

 

  • ERMでは、時価純資産(資本)とリスク量を計測して、資本とリスクとのバランスを保つ必要があります。
    特に金融市場の変化等によって、資本とリスクは変動するため、そうした状況を踏まえた健全性の維持が重要になります。
     
  • また、リスクをグループ全体の視点で定量的・定性的に把握して適切に管理し、資本を有効に活用する観点で、既存事業のリスクテイクの拡大や地理的、リスクカテゴリー別の分散を図りながら、リターンの拡大を目指すことが求められます。

ESR(Economic Solvency Ratio)とは

● リスク量に対する資本の充実度を示す指標です。
 

● リスク量は、事業や資産に係る損失や価値変動のリスクを統計的に数値化したものであり、統合リスク量は当社グループ全体のリスクの総額となります。また、当社グループでは、損失発生予想額の発生確率として、200年に一度の確率を用いています。
 

● 新中期経営計画「Vision 2021」より、各項目の税引後数値への統一や国内自然災害リスク計量手法の見直しなど、計算方法の高度化を行いました。
 

● AA格相当の財務健全性の確保を目指して、新手法のもとでは、ESRの適正水準を180%~220%として統計的に200年に1度の損失の約2倍の資本を備えるものとしています。

ROR(Return on Risk)とは

● リスクを引き受けることによって、どれだけの利益が得られるかを示す指標です。

 

● リスクを引き受けるためには、それに見合う資本の確保が必要になります。したがって、RORが高い(すなわち、引き受けたリスクに対して得られる利益が大きい)事業は、必要な資本に対して、得られる利益がより大きい事業ということができます。

VA(Value Added)とは

● リスクを引き受けることによって、どれだけの付加価値が得られるかを示す指標です。


● RORがリスクに対するリターンを割合で示すのに対し、VAは得られる付加価値を実額で評価します。

ERMとリスク管理

MS&ADインシュアランス グループでは、リスク選好方針に沿って経営計画を策定し、ERMサイクルをベースに、健全性の確保と、収益力と資本効率の向上を図っています。ERMサイクルに沿って、リスクに見合った資本の配賦を行い、引き受けたリスクに対するリターン(ROR)のモニタリングを通じて、リスクコントロールやアンダーライティングの強化等を行っています。

ERMサイクル

ROR向上に向けた取り組み

リスクのコントロール

当社グループでは、リスク管理を経営の最重要課題と位置付け、「MS&ADインシュアランス グループ リスク管理基本方針」を定め、グループ内で共有された基本的な考え方のもとでリスク管理を実行しています。具体的には、当社グループの事業ポートフォリオに影響を及ぼす主要なリスク事象を洗い出し、そのリスク要因を定量・定性の両面から評価することによって、リスク管理を推進しています。当社グループのリスク管理体制の詳細は、下記のリンクをご参照ください。

・リスク管理基本方針
・リスク管理体制
・保険事業のリスク
・海外事業のリスク管理態勢
・危機管理体制(事業継続計画を含む)

 

リスクの特定

グループ重要リスク(2018年度)

 

当社グループでは、経営が管理すべき重要なリスクを特定し、管理取組計画を策定するとともに、グループ経営への影響を確認するために、各リスクの状況を定期的にモニタリングしています。

 

1. 国内外における大規模自然災害の発生
2. 国内外における金融マーケットの大幅な変動
3. 信用リスクおよび不良債権の増加
4. グループの企業価値の著しい毀損につながる法令等違反行為や顧客利益を損なう行為の発生
5. サイバー攻撃による大規模・重大な業務の停滞・情報漏えい・保険金支払い発生、および個人情報や機密情報の大量漏えい・不正利用の多発
6. システム障害の多発や重大なシステム障害の発生
7. 新型(強毒性)インフルエンザ大流行
8. 重大な労務問題(長時間労働・ハラスメント等)の発生、社会的信用の失墜

 

グループエマージングリスク

 

1.中長期的な視点から当社グループ経営に影響を与える可能性のある事象や、2.現時点では当社グループ経営への影響の大きさ・発生時期の把握が難しいものの、経営が認識すべき事象を「グループエマージングリスク」として特定し、リスクの高まりを早期に捉え、将来を見据えた具体的な取り組みへつなげています。グループエマージングリスクは脅威としてだけではなく、環境や社会課題を解決する新たなビジネスチャンスを生み出すものとしても捉え、商品・サービスの開発や経営戦略の策定等に活用しています。

 

1.少子高齢化の進展

国内保険市場は縮小傾向となる一方で高齢者の増加および平均寿命の延伸による新たな保険ニーズが発生します。
当社グループでは、トンチン年金等の保険の開発・研究による新規マーケット創造や、テレマティクス技術を活用した新たな保険の提供による高齢ドライバーの事故発生頻度上昇への対応などを行っています。
また、海外事業を強化し、事業ポートフォリオの変革を進めています。

2.気候変動

これまでに経験したことのない巨大な災害の発生は、多額の保険金支払いにつながります。当社グループでは、自然災害リスク分析モデルの精緻化やストレステストの実施、再保険の手当て等により、十分な財務健全性を維持しています。
また保険等によるリスクソリューションで再生可能エネルギーの推進を支え、気候変動の緩和に努めています。気候変動の適応策としては、お客さまが被る損失を軽減するリスク評価やコンサルティングサービスを提供し、
2018年には東京大学・芝浦工業大学と気候変動を踏まえた災害リスク将来予測に関する共同研究も開始しました。

自然災害リスク管理の高度化

2017年は、北米地域で大規模ハリケーンが複数発生し、大規模な山火事も発生するなど、多くの自然災害が発生し、保険史上最大の損害額を記録する年となりました。
当社グループでは、従来より、損害予想額の発生確率として200年に1度の確率を用いて、必要な資本を確保するとともに、国内地震、風水災や米国ハリケーンなどの大規模な損害に対しては、ストレステストの実施を通じて、グループ全体の健全性を確認できる体制を構築してきました。このため、2017年度も財務健全性は適正水準を維持し、安定的な事業継続を行うことができました。
しかしながら、2017年度のように、近年、大規模なハリケーンや台風、大降雪などが頻発するようになり、自然災害はその規模と頻度を増しています。こうした状況を受け、当社グループでは、国内風水雪災・米国風水災のリスク量計測手法の精緻化や、ストレステストの強化、アジアの自然災害リスクの研究・評価の推進など、自然災害リスク管理の一層の高度化を図っています。

自然災害リスクの保有量のコントロール

2017年度は、健全性への影響はなかったものの、自然災害による大規模な損失により、グループの単年度収益が大きく悪化したことを受けて、自然災害リスクの保有量のコントロールの強化にも取り組んでいます。
具体的には、①国内風水雪災・米国風水災リスクに係るグループ管理の強化、②再現期間10年のリスク量のモニタリングの開始、③グループ国内損害保険会社2社による主に国内風水災リスクをカバーするキャットボンドの共同発行などを実施しています。

サイバーリスク(保険引受リスク)管理の強化

近年のデジタル技術の進展とその技術を使った製品の普及により、サイバーリスクは急速に拡大しています。サイバーリスクは世界各国で同時多発的に発生する可能性があり、それによる損害をカバーする保険引受リスクの集積管理を強化
する必要があります。
当社グループでは、これまでも、「サイバー攻撃による情報漏えい等」をグループ重要リスクとしていましたが、2018年度より「サイバー攻撃による保険金支払いリスク」を加え、ストレステストによるサイバーリスクの影響規模把握など、グループ全体での集積リスク管理態勢の一層の強化を行っています。