自然資本の財務情報開示

経済活動により自然資本のき損が進んでおり、このまま生物多様性が損なわれていくと、持続可能な社会の実現への支障となる可能性があります。当社グループは自然資本の持続可能性向上に取り組むとともに、自然関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TNFD」)が、2023年9月に公表したTNFD開示提言第1版(TNFD v.1.0)を参考に、自然関連の情報開示を進めています。

TNFDに関する取組み

当社はTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)の目的に賛同し、TNFDの理解促進や枠組開発等に取り組みました。

理解促進と枠組開発

TNFDは開示枠組構築のため、世界14か国の金融機関、企業等からメンバーを選出しており、当社社員がタスクフォースメンバーの一員として選定され、枠組開発に貢献しました。
開示枠組はTNFDが試案(β版)を公開し、企業や金融機関等のステークホルダーからの意見を受けて開発を進めましたが、当社はTNFDフォーラムに参画し、この取組みを支援しました。
また国内では、TNFDフォーラム参画企業等によるTNFDの理解促進を目的に、TNFDコンサルテーショングループ・ジャパン(通称:TNFD日本協議会)を2022年6月に設立し、TNFDのβ版解説や、参加者が議論を行う場を提供し、β版への理解促進と意見出しの支援に取り組みました。

パイロットプログラムへの参加

当社はTNFDが国連環境計画金融イニシアティブと提携したパイロットプログラムに参加しました。
このプログラムは、地域と産業を組み合わせた複数のテーマから1つを選び、TNFDが試案で提唱している手法に沿ってリスク評価を試行し、結果をTNFDに報告して枠組開発に役立ててもらうものです。
当社はリスク評価や開示のノウハウの取得、パイロットの実施を通じて得た知見を枠組開発やTNFDコンサルテーショングループ・ジャパンに活かすことを目的に参加しました。

自然資本に関するソリューションや商品の提供

当社グループでは、お客さまが事業を展開する国内外の拠点やプロジェクト開発における自然資本への影響を定量評価するさまざまなサービスや、自然へのき損により発生する経済的損害を補償する商品を提供しています。

リスクを見つけ伝える

リスクの発現を防ぐ
リスクの影響を小さくする

リスクが現実となったときの
経済的負担を小さくする

自然資本のき損や劣化等に起因するリスクの評価

(分析例)

・水を大量に使用する事業が、将来的に受ける各拠点の水枯渇のリスク

・天然資源を主とするサプライチェーンの持続可能性の評価

評価・分析結果をもとにしたリスクマネジメント策の提案や、事故防止のためのサービスの提供

(提案例)

・地域の生態系に配慮した土地利用のコンサルティング

・ロードキル防止のためのスマートフォン向けアラート機能提供

必要なリスク補償の提供

(補償例)

・自然環境の損害に対する回復活動に支出した費用

・使用していた材料の持続可能性を担保する認証が取り消された際の回収や謝罪に要する費用

 

TNFDに沿った
自然関連リスク分析支援

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のガイダンスに沿って、分析対象のスコーピング、バリューチェーンを含めて優先地域や依存とインパクトの分析、それらを踏まえた事業リスク・機会の検討や情報開示を支援
2022年11月には自然資本ビッグデータを有する株式会社シンク・ネイチャーと提携するなど、分析技術の更なる発展・開発を進行中

 

シンク・ネイチャーとMS&ADが協定を締結

水リスクの簡易評価

気候変動、途上国の人口増、経済の発展などにより水資源が枯渇する地域が世界的に増加
企業の操業まで脅かす事例もあり、企業は自らの水リスクの把握、開示が必要
企業の国内外の拠点について水リスク(枯渇、汚染、洪水・干ばつなど)を評価するサービスを提供

 

水リスク簡易サービス

生物多様性土地利用
コンサルティング

生物多様性保全の取組みを経営上のリスク・チャンスとしてとらえ、事業の土地利用において生物多様性に配慮した取組みを始める企業が増加
事業所やマンション等、緑地を備える土地の利用方法について、調査・分析からそれに基づく整備・活動計画の策定まで、総合的に支援

 

生物多様性土地利用コンサルティング

プラスチックの資源循環に取り組む企業向け保険料割引の提供

プラスチックの資源循環の促進を支援するため、プラスチックの資源循環に取り組む企業を対象に、一部の賠償責任保険について保険料の割引を提供

 

プラスチックの資源循環に取り組む企業向けに保険料の割引制度を導入

ロードキルの削減支援

イリオモテヤマネコといった希少種の死亡原因として上位に挙げられる自動車事故(ロードキル)を防ぐため、自動車保険の専用ドライブレコーダーにアラート機能を搭載
2022年度から自動車保険の専用ドライブレコーダーの販売実績に応じ、希少動物保護やロードキル削減に取り組む団体等に寄付を実施

 

自然資本・生物多様性の保全・回復に資する商品・サービスの展開について(MS)

自然資本や生物多様性の保全・回復に貢献する当社商品・サービスの拡充について(AD)

 

海洋汚染対応追加費用を補償

船舶事故により自然環境に損害が発生した際に、従来の保険では補償対象外であった船舶運航者が自主的に行う自然環境への損害に対する保全・回復活動等の費用を補償

 

船舶保険「海洋汚染対応追加費用補償特約」の販売開始

汚染損害に関わる費用を

幅広く補償

汚染物質が工場等の施設から不測かつ突発的に流出したこと等に起因する損害賠償責任や、汚染の浄化費用等を幅広く補償

 

施設所有(管理)者賠償責任保険「汚染損害拡張補償特約」の販売開始(MS)

自然資本や生物多様性の保全・回復に貢献する「汚染損害拡張補償特約」を発売(AD)

再造林等の費用を補償

従来の森林火災保険では補償対象外であった、火災等によって罹災した森林を再造林するために要した費用を補償

 

林業者向け火災保険「フォレストキーパー」の販売開始(MS)

自然資本や生物多様性の保全・回復に貢献する「再造林等費用補償特約」を発売(AD)

企業緑地支援パッケージ

近年のネイチャーポジティブやTNFDなどの動向からも、企業の土地利用の具体的な取組みとして、生物多様性に配慮した企業緑地はその重要性が増大
長年にわたり本社の駿河台緑地の整備に取り組んできた三井住友海上と、自然資本・生物多様性に関する研究、コンサルティングサービスを行ってきたMS&ADインターリスク総研の知見と経験を活かし、「駿河台緑地の視察案内」「企業緑地コンサルティングサービス」「企業緑地保険」をパッケージ化した保険商品・関連サービスを提供し、自然資本・生物多様性に配慮した企業の緑地取組を支援

 

企業緑地保険と関連サービスで企業の緑地取組を支援

「野焼き」の賠償責任保険の提供

熊本県阿蘇の早春の風物詩である「野焼き」に関わる事故を補償する賠償責任保険を2023年2月に国内で初めて創設
阿蘇では草原の維持・再生、生物多様性の保全や炭素貯留、下流の水源涵養のため野焼きが長年行われてきたが、火災事故が発生するなど、安心・安全の確保が課題
野焼き中の他物への延焼に関わる損害の補償の提供により、野焼きが持つ機能を維持し、自然環境の保全に貢献

食品事業者向け 生産物回収費用保険「食eco」

社会貢献型フードシェアリングプラットフォームを運営する、株式会社クラダシと提携し、食品事業者向け生産物回収費用保険を提供
食品事業者が消費期限の誤表示等によりリコールを実施する際、品質に問題がない食品をクラダシが買い取ることによって食品ロスを削減すると同時に、廃棄コストが軽減できることから、保険料を10%割引
食品ロスは世界的に注目される社会課題の一つであり、通常であれば廃棄される食品を有効利用することで、食品ロスの削減に貢献

パートナーシップ・産学連携による生物多様性の保全

当社グループは、「MS&ADインシュアランス グループ 環境基本方針」において主要課題の一つに「生物多様性の保全」を掲げ、さまざまなイニシアティブに参画するなど、取組みを推進しています。

自然資本ファイナンス・アライアンス(旧自然資本宣言)

2016年7月に、金融機関が「自然資本」という考え方を金融商品やサービスの中に取り入れていくことを宣言した自然資本宣言(Natural Capital Declaration)の趣旨に賛同し、本宣言に署名しました。自然資本宣言は「自然資本ファイナンス・アライアンス(Natural Capital Finance Alliance)」へ、組織を発展的に改組しています。

Business for Natureの
Call to Action

野心的な自然環境政策を採用することを政府に求めるBusiness for NatureのCall to Actionに賛同しています。

30by30アライアンス

2030年までに世界の陸地と海洋の30%以上を保護・保全地域とする国際目標である「30by30」実現に貢献するため、環境省が運営する「生物多様性のための30by30アライアンス」に参加しています。当社はグループ保有緑地の保全を進め、目標実現への貢献をめざします。

(一社)いきもの共生事業推進協議会(ABINC)

生物多様性に配慮した企業緑地の認証(ABINC認証)等、いきもの共生社会に向けた事業の推進を目的に設立しました。MS&ADインターリスク総研が事務局を務めています。
▶2023年6月時点ABINC認証の緑地は139件

企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)

企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)は、生物多様性の保全と生物資源の持続的な利用について共同研究する企業の集まりです。2007年に開催した「企業が語るいきものがたり」のシンポジウムに参加した企業を中心に、ビジネスにおける生物多様性保全の取組推進に向け学び合い、行動することを目的に発足しました。MS&ADグループは2008年4月の設立以来、会長会社として活動しています。
▶2023年6月30日時点で正会員・ネットワーク会員 計59社

地方創生と地域防災

地域の自然に根差した地方創生と地域防災に関する事業に取り組んでいます。

 

レジリエントで包摂的な地域社会づくり(地方創生)

「企業が語るいきものがたり」シンポジウム

当社は「企業が語るいきものがたり」シンポジウムを毎年開催しています。本シンポジウムは企業の生物多様性の取組みに関する情報提供の機会として、2007年に開始し、2023年2月に16回目を開催しました。「生物多様性民間参画ガイドライン」等に取り上げられ、高く評価されています。

アジア・国内における生物多様性保全取組

コンサベーション・インターナショナル・アジアパシフィックとの活動

国際NGOのコンサベーション・インターナショナル・アジアパシフィック(CIAP)と連携し、東南アジアの生物多様性保全活動を推進しています。アジア6つの中核市場(香港、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム)と2つの太平洋諸国(フィジー、ニューカレドニア)において、現地パートナーとも協力しながら、森林再生、マングローブ植林、希少な野生動物の保護、保護地域の監視などに取り組んでいます。

 

アジア太平洋地域の生物多様性の保全取組

Protecting Biodiversity(MSIG-Asia)

 

森林の再生と持続可能な地域社会形成の支援(インドネシア)

土づくりの研修の様子
拡大
土づくりの研修の様子

2005年度よりインドネシア政府と連携し、ジャワ島のジョグジャカルタ特別州において野生動物保護林の修復・熱帯林再生プロジェクトを18年にわたり推進しています。植樹により劣化した森林を再生させ、持続可能な地域社会の形成に向け、保護林の維持管理を行うと同時に周辺住民に植林や育林の技術指導を行って住民協働型植林を展開していくなど、地域経済の活性化にも努めています。

 

インドネシア熱帯林再生プロジェクト

 

「あいおいニッセイ同和損保の森」での植林活動

「健やかな地球環境を未来につなぐ」ための活動として、2019年度より北海道美幌(びほろ)町で「あいおいニッセイ同和損保の森」植林活動をスタートしました。お客さまの「ペーパーレス保険証券・Web約款」等の選択による当社の環境寄付取組が植林活動へ役立てられています。植林地の土壌の特徴に合わせ、水気に強い3種類(ミズナラ・シラカバ・ヤチダモ)の広葉樹を15.5haの土地に植樹しました。

グループの環境保全の取組み

環境保全活動や社員に対する普及啓発に積極的に取り組んでいます。

MS&ADグリーンアースプロジェクト

「MS&ADグリーンアースプロジェクト」は自然環境の保全・再生や環境負荷低減、防災減災・地方創生にグループ一体で取り組むプロジェクトです。ペーパーレス等による資源利用そのものの削減・リサイクルによる資源循環や、自然環境を保全することによって自然のもつ防災減災や脱炭素などの機能を引き出し、自然の力を活用した社会課題の解決(Nature based Solutions)につなげるなど、気候変動への対応と自然資本の持続可能性向上に統合的に取り組んでいます。
 

MS&ADグリーンアースプロジェクト

ブルーエコノミープロジェクト

自然資本・生物多様性の保全や脱炭素化に伴う中長期的な社会変革を視野に入れ、海洋海底における再生可能エネルギーやネガティブエミッション技術等「気候変動・脱炭素化への対応」、海洋データやAI等を活用した「海洋・海底事業のDX化への対応」をテーマにした取り組みによって新たに生じるリスクを分析し、ブルーエコノミーの発展を支える保険商品・サービスの開発を、社内外の組織を横断した体制で推進します。
 

「ブルーエコノミープロジェクト」始動

自然共生サイトとしての「駿河台緑地」と企業の緑地取組支援

三井住友海上の駿河台ビル・駿河台新館周辺の緑地(駿河台緑地)は、生物多様性に配慮した企業緑地として高い評価を得ています。当社グループは「30by30」実現への貢献をめざし、環境省の「自然共生サイト認定」に係る事業に参画し、駿河台緑地が2023年10月に「自然共生サイト」に認定されました。
三井住友海上とMS&ADインターリスク総研は、両社の知見・経験を活かし、「企業緑地支援パッケージ」を提供し、企業緑地保険と関連サービスで企業の緑地取組を支援しています。
 

駿河台の緑地

環境省の「自然共生サイト(仮称)認定実証事業」に参画

「自然共生サイト認定」実証事業において「認定」相当の評価を獲得

企業緑地保険と関連サービスで企業の緑地取組を支援

三井住友海上 駿河台ビル・駿河台新館の周辺緑地が環境省「自然共生サイト」に認定

プラスチック使用を削減する取組み

海洋汚染が深刻になる中、プラスチック利用の削減、また社員への海洋プラスチック問題の啓発を目的に、三井住友海上では2018年8月より社員食堂でのプラスチックカップ、ストローの利用を廃止しました。またあいおいニッセイ同和損保では2019年7月には、水栓直結式のウォータースタンドを設置し、マイボトルの利用促進を始めました。
更に2020年7月には勤務中のプラスチック使用を減らすよう、レジ袋に代わるオリジナルのマイバッグや個人所有の飲料ボトルに添付してマイボトル利用を呼び掛けるシールを作成し、グループ社員に配布するなど、グループを挙げてプラスチック使用を削減する取組みに力を入れています。

森林認証紙※の使用促進

当社グループでは、2010年度よりパンフレット等の印刷物やコピー用紙について、森林認証紙への切替えを推進しています。適切に管理された森林の木材から作られる紙を使用することで、森林保護を通じた生物多様性の保全に貢献します。
(※)持続可能な森林利用や環境保全を目的に、適切に管理された森林からの木材を原料として製造された用紙

サステナブル・シーフードの提供

2019年10月より駿河台ビル、2020年8月より千葉ニュータウンセンターの社員食堂において、毎月「サステナブル・シーフードデー」を設け、食堂利用者にサステナブル・シーフード※(持続可能な水産物)を使ったメニューを提供しています。社員自らが「食する」ことで、サステナビリティ取組を実感するとともに、自ら消費行動を変革することで、持続可能な社会の実現にも貢献しています。
(※)持続可能な生産(漁獲・養殖)に加え、加工・流通・販売過程における管理やトレーサビリティの確保について認証を取得しているシーフードです。