MS&ADグループは、さまざまな社会課題の中から、「地球環境との共生」「安心・安全な社会」「多様な人々の幸福」の3つを特に重要な課題と定めて、その解決に取り組んでいます。
SDGs17の目標を「自然」「社会」「人」の3つの階層に整理した、ウェディングケーキモデルが示しているとおり、「多様な人々の幸福」は「安心・安全な社会」が支えており、「安心・安全な社会」は「自然環境」が支えていることがわかります。この3つの課題は互いに深く関係しており、統合して取り組む必要があります。
地球環境との共生を意識したネイチャーポジティブな安心・安全な社会の構築や、それらから生み出される人々の幸福など、私たち保険会社が皆さまと協力してできることは、まだまだ多くあると考えています。

地球環境との共生(Planetary Health)

2015年気候変動枠組条約のパリ協定採択を受け、世界各国の政府は世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求することに合意しました。温室効果ガス排出量の大幅な削減を前提とした脱炭素社会へ移行することが求められています。また、地球温暖化の影響と見られる異常気象が頻発しており、気候変動への適応も求められています。
2022年12月に開催された生物多様性条約締約国会議では新たな国際目標「昆明モントリオール生物多様性枠組」が設定され、「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させ、回復軌道に乗せる」、いわゆる「ネイチャーポジティブ」の方向性が明確に示されました。ネイチャーポジティブへの移行においても、社会や経済全体の変革が必要であり、国や自治体だけでなく、企業も重要な役割を期待されています。
私たちの社会や経済は、気候システムに加えて、水資源、陸域及び水域の生きものといった自然資本によっても支えられています。地球温暖化は自然災害の激甚化や森林の焼失・砂漠化などの物理的な変化をもたらし、私たちの暮らしにさまざまな恵みをもたらす自然資本をき損させます。森林が無くなれば、CO2の吸収量が減少することになり、温暖化を加速させることになります。このように、気候変動と自然資本の問題は相互に関連しながら、社会や経済に影響を与えます。MS&ADインシュアランスグループは中期経営計画でサステナビリティ重点課題(マテリアリティ)の1つに「地球環境との共生~Planetary Health~」を掲げ、気候変動への対応と自然資本の持続可能性向上を一体的に取り組む課題と位置付けて、社会との共通価値を創造するCSV取組を進めています。
当社グループは、気候関連のリスクや機会は、大規模自然災害のように単年度の収支に影響をもたらすものや、中期及び長期に発現するものがあることを認識しています。保険事業者として自然災害による巨大な集積損害リスクへの対応を進め、自社のリスクマネジメントを高度化しています。また、パリ協定の1.5℃目標に沿って「2050年ネットゼロ」のGHG削減目標を掲げ、ステークホルダーと協力し脱炭素社会への移行に貢献していくことを宣言しました。再生可能エネルギーや水素といった次世代エネルギー、ネットゼロの実現に向けた革新的技術の確立と社会実装を支援しています。また、気候変動の影響の評価や、自然災害による被害や損失をなくす、若しくは軽減するためのサービスの提供を加速しています。例えば、近年世界で降雨量が想定を超え、洪水の被害が多く発生しています。こうした背景から、自然の機能を活用した課題解決(Nature based Solution)が注目されています。当社グループは、この普及を進め、環境の再生・保全による防災減災にも取り組み、気候変動への適応を進めています。
ネットゼロ社会への移行による社会や経済の急激な変化、気候変動の適応策への関心の高まりは、新たな保険商品・サービスへの需要の喚起や、新しい産業の勃興や技術変革に伴う顧客企業の業績向上など、当社グループの成長につながる機会をもたらすと考えています。
自然資本の分野では、自然や生物多様性の保全・回復に資する新たな商品・サービスの提供に取り組んでいます。これらの商品は、気候変動への対応にも重要となる海、森、土、動物といった自然へのネガティブなインパクトを緩和する効果をもたらすものもあります。また、ネイチャーポジティブの実現には社会全体で取り組むことが重要であるため、当社グループでは、TNFD(2021年10月~)開示枠組の開発や、イニシアティブへの参画、産官学との連携を通じ、最新情報の発信や研究、ソリューション開発等を推進しています。
また、ネイチャーポジティブな社会への移行においては、ネガティブなインパクトをもたらすリスクの回避に向けて、企業の負担は大きくなる可能性があります。企業は、事業活動に関わる自然関連リスクを把握して事前に対策を打つことで負担の増加に備えることが重要となります。当社グループのビジネスモデルである「リスクを見つけお伝えする」サービスは、このような新しいリスクへの備えとなり、当社グループの成長につながる機会をもたらすと考えています。

 

安心・安全な社会(Resilience)

パンデミックの発生は、我々の社会・経済、生活様式に非常に大きな変化を引き起こしました。産業や社会は急速にデジタル化し、人々のオンライン交流、電子商取引、オンライン教育、リモートワークへのシフトや、こうした変化を促進するプラットフォームが急増し、私たちの社会は大きく変化を続けています。そのような中、デジタル・セーフティの向上や新しい日常への備えはますます重要になっています。そして、2022年秋に公開されたChat GPTをきっかけに、その技術への期待とリスクに関する議論が活発になっている生成AIなど、今後もテクノロジーの進歩に伴うリスクへの対応は、私たちの社会に重要な問題となりえます。
MS&ADインシュアランス グループは、イノベーションの進展や産業構造の変化等に伴う新しいリスクを予測、予防し、適切に管理していくことが人々の安定した生活や活発な事業活動のために重要であると考えています。新たなリスクに関する調査・研究を進め、対応する商品・サービスを提供し、安心・安全な社会の実現に貢献すると同時に、当社の成長の機会につなげます。
また、気候変動の影響により、近年、豪雨、洪水、サイクロンなどの自然災害が甚大化しており、世界各地で多くの被害が発生しています。ハードやソフトの両面において災害に強い社会づくり、及びまちづくりを進め、災害による被害を低減し、経済損失を減らすことが急務となっています。防災減災に向けて、保険の事業を通じて蓄積したさまざまなデータを活用したDXを推進し、安心・安全な社会の実現に取り組んでいます。自然災害だけではなく、自動車事故や感染症対策など、社会が直面するさまざまなリスクにおいて、データ分析やAIによるリスクの可視化、課題解決手段の提供に注力します。

こうした、事故や災害といった突然発生する事象だけではなく、現在、日本や先進国の多くで少子高齢化が進み、地域の活力の低下といった徐々に進行する社会変化も大きな課題となっています。当社グループがめざす「レジリエントで包摂的な地域社会づくり」とは、安全かつ回復力のある持続可能な居住空間を実現し、誰もが安心して暮らしていけるまちづくりを進めることです。人々の安心、安全な暮らしを支えるためには、万一発生した際に被るリスクをあらかじめ予測し、有事に備えたまちづくりが大きな意味を持ちます。また地域で働き続けていくための地域産業の活性化も、重要な要素です。地方創生は政府の重要施策の一つですが、私たちも地域特性に応じた産業振興策や自然資本を活かした災害に強いまちづくりの支援等、地域自治体や地域を取り巻くさまざまなステークホルダーとともに、誰もがどこでも安心して暮らし続けられる包摂的な社会の実現に向け、取組みを進めています。
 

多様な人々の幸福(Well-being)

国内では少子高齢化が進展し、総人口は減少傾向にあります。「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、2065年には総人口が9,200万人を下回り、65歳以上の人口が総人口に占める割合である高齢化率は約38%となることが推計されています。高齢者人口の増加に伴い、高齢者が安心して暮らせる環境が求められています。移動しやすい都市構造、健康づくりへの支援、加齢とともに低下する身体機能や介護に配慮した居住環境が必要です。また同時に、人口減少の緩和に向け、妊産婦や子ども、子ども連れの人が安全に、かつ、安心して暮らせる環境であることも重要となっています。多様な人々が各々の違いをありのまま受け入れられ、安心して幸福に暮らせることが私たちの考えるWell-beingな状態です。
MS&ADインシュアランス グループは、保険で提供する保障のみならず、Well-beingを支えるお客さまの健康をトータルでサポートするための各種ヘルスケアサービスを無料・優待価格で提供し、個人のお客さまだけでなく、法人のお客さまの健康経営や人財確保を支援しています。
また人生100年時代は、私たちの人生に新たなリスクももたらしますが、健康寿命の延伸に加え、経済的にも心配なく生活できる、いわゆる「資産寿命」を延ばすことが重要です。充実したセカンドライフを支える資産形成策の提供を行うとともに、超高齢社会を支える事業活動の発展を支援し、「健康・長寿社会への対応」を進めていきます。
当社グループはWell-beingの根幹となる人権尊重の取組みを強化しています。「MS&ADインシュアランス グループ 人権基本方針」では、当社グループのみならず、サービスの調達等に関わるサプライヤーや、代理店等のビジネスパートナー等、広く当社グループのバリューチェーンを対象としています。当社グループはこれらの関係者に対して、事業活動において人権への負の影響が発生することを防止、軽減するように働き掛けを行っています。国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に依拠し、人権尊重のマネジメントシステムである人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築・実施し、人権侵害のないバリューチェーン、社内環境を整備することで企業価値向上をめざします。また、保険・金融グループにおける人権への取組みとして、貧困や社会的属性によって保険や金融サービスへのアクセスが限定されることなく、誰もがそのサービスを活用して経済的な安定性を向上できる「金融包摂」の概念に賛同し、特に途上国における現地法人で取組みを活性化させています。多様なマーケットとの取引拡大は、当社におけるビジネスの機会にもつながり、マイクロインシュアランスなどの事例を推進しています。
お客さまをはじめとするステークホルダーのWell-being実現のお手伝いをするには、社員のWell-beingの実現も欠かせません。社員のWell-Beingは、心身ともに健康であること、働きやすい環境があること、働きがいを感じられること、この3つの要素で成り立っていると考えています。社員の多様性が尊重され、一人ひとりの能力・スキル・意欲が最大限発揮できる機会が提供されていることが重要であり、社員の成長が企業価値の向上につながると考えています。中期経営計画では、戦略実行を担う人財の育成・確保とともに、いきいきと活躍できる環境の整備を掲げています。社員がやりがいを感じ、主体的・意欲的に働くことができる環境を整備し、変革と新たな価値の創造にチャレンジする風土を醸成します。また、意思決定層の多様化推進とともに、多様な人財の知識・経験・価値観を引き出し、組織の意思決定に活かすインクルーシブな組織運営の浸透を進めます。