経営トップのコミットメントが重要。経営課題に取り上げ、理解と認知を図る
持続可能性の先導者で
あろうという思いが大切 枝廣氏
枝廣 先日取材に行ったスウェーデンで、政府は187の行政機関、60弱ある国営企業すべてに毎年SDGsの取り組みを報告させている。企業もESG投資の圧力からではなく、世界の持続可能性のリーダーであり続けたいという思いで取り組みを進めている。その結果、SDGsの取り組みが他国よりも先行している。
そこで本パネルディスカッションでは、次の一歩をどう考えるかを議論したい。一番問題になるのはどうやって経営課題にしていくのか、全社で取り組むためにはどうしたらよいかということだ。
SDGsの認知度いまだ低く
若年層に浸透進まず
国谷氏
国谷 ある調査によると、SDGsについて「知っている」と答えた人は12%だった。30代から50代の男性の管理職層が中心で、現場の若い人までは浸透していないことが明らかになった。
高村 企業のCSR・環境部局では理解されているものの、経営の問題にするにはどうしたらいいのか、多くの企業が悩んでいる。先進的な企業をみると、部局間の情報ギャップを埋めることを意識している。
温暖化交渉会議はパリ協定が採択されたCOP21以降、自治体首長や企業トップなどが集まってその取り組みや考え方を議論。情報共有を積極的に進めている。経営層にはぜひともそうした場に足を運んでほしいと考える。時間的に難しい場合は、日本国内でも国際的なプラットフォームの窓口や情報交換の場が増えているので、積極的に参加して情報を共有することを勧める。
エコノヒトキャンペーンで
SDGsの目標を身近なものに 槇氏
槇 SDGsへの認識はCSRより低いのが現状だ。そこでトヨタでは全社的に「エコノヒトキャンペーン」を行いながら、SDGsの17目標のストーリーを作って身近なものにしていきたい。
先般、コーポレートガバナンス会議をサステイナビリティ会議と名称変更した。そこで議論しながら、リスクマネジメントと競争力強化が攻守一体となった取り組みを進めていく。
原口 COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の17年の調査では、財務部門とサステナビリティ部門の考え方がほとんど一致していないことが分かった。それから見ると、グローバルでもそれほど進んでいるわけではない。
とはいえ、この10年で勝負が決まってしまう。SDGsでは多くの企業が取り組んでいる環境リスクマネジメントとは全く違う世界にいかなければならない。そのためにはサステナビリティ部門だけではなく、リスク管理委員会に上げていくことが必要だ。MS&ADグループで中期経営計画にSDGsが位置づけられたのはトップの理解があったからだ。さらに一歩踏み出して社員向けの勉強会を開くことにしたが、1日で予約が一杯になってしまった。このように社員の意識改革にはトップのコミットメントが極めて重要で、ボトムアップではなかなか浸透するのは難しい。
省庁も縦割意識を捨て、議論の活性化を
国谷 熱心に取り組んでいる海外企業の経営者の話を聞くと、ビジネスを離れて理念を熱く語るのが印象的だ。日本では各部署がたこつぼに入りがちな中、議論することで横串を刺して活性化させていくことが大切だ。
政府レベルで見ても、各省庁がすでにやっているというリストを出すばかりで、イノベーションを生むような対話の機運が生まれていない。
枝廣 SDGsは17の目標が別々に17個あるのではなく、それぞれが密接につながっている。それをどう解くかでイノベーションが生まれる。
「ルービックキューブ」のように、こちら側を合わせようとすると、裏側がぐちゃぐちゃになってしまうかもしれない。省庁の場合も縦割りを越えてやっていかないと意味がない。スウェーデンではひとつの省庁の行動が、他の省庁の足を引っ張ることにならないような仕組みになっている。この点は日本も見習うべきだ。
SDGsに取り組んで行くために、どこに気をつけて、好循環を作り出していけばよいのか。
感度の高い社員に
社外ネットワーク参加を促す 原口
原口 鍵を握るのはオープンイノベーション、すなわち共創だ。行政やNGOとネットワークを持ったり、企業同士のビジネスネットワークに入ったりして、同じ悩みを抱えている他業種の人と議論をすると大きなヒントが得られることがある。中長期的な視点で感度の高い社員を、そうした社外のネットワークに積極的に出していくことが重要だ。
槇 感度を高めるために、二律背反のものは必ず克服できる、敵対軸を作るな、と社長の豊田章男からも言われている。
例えば技術で考えれば、エンジンのように燃費をよくすればトルクが下がるという二律背反を克服するために挑戦していく。自分だけで考えきれなかったらほかの人に聞くように、対立軸をつくらない考え方が重要だ。
複数のシナリオを分析し
戦略の立案が必要 高村氏
高村 かつてない規模での変化の中で、どうやって先を読んでいくのか。決め打ちではなく、ある程度の幅の中で、戦略を立てていくことがポイントになる。
例えばある国際的な石油会社は、社会や経済の動向について複数のシナリオを作り、どの場合でも生き残っていけるような態勢にしている。このようにシナリオ分析を行って、戦略を立てることが必要だ。
変化は勝手に起きているのではなく、私たち自身が変わっていこうと目標を定めていることで起きている。その中で、社会を分析しながら目標を持つことが大切だ。
国谷 地方では「昨日の敵は今日の友」ともいうべき動きが出てきている。小さな自治体の中で、今まで口も利かなかったライバルの中小企業経営者同士が再生可能エネルギーで手を組む。そして、メガソーラーを建設して発電し、電力会社を作って電力を売り、地域でお金が回るようにしている。そこにはお互いに対話する姿勢がある。そうした社会的対話の場が重要だ。
枝廣 次の一歩に向けてのアドバイスを聞かせてほしい。
原口 色々な情報を集めた上で、アクションを起こしていくことが重要だ。
槇 「機械は人と一体化してこそ完成する」という当社の創業者、豊田喜一郎の言葉が脈々と生きている。その考え方を今後も徹底的に追求し、生かしていく。
高村 今起きている変化はあまりにも大きいので、その分析手法やリスク管理が求められる。加えて金融機関や投資家は、「SDGsが企業価値につながる問題で将来のビジネスに直結する」というメッセージを常に送り続けてほしい。
国谷 グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表の有馬利男さんにインタビューした時に、印象的だったのは「会社が本当に動き出すと社員に志が生まれて、結束が高まっていく」と語っていたことだ。企業がSDGsに取り組み、誇りを持つことで社員の志が高まり、結束が生まれるだろう。