大きな便益もつ再生可能エネ技術革新でコスト競争力持つ
2015年12月にCOP21でパリ協定が採択され、翌年に発効した。ビジネスとの関係で重要なのは、脱炭素化を目指す明確な長期目標を設定したことだ。平均気温の上昇をセ氏2度を十分下回る水準に抑制し、1.5度にするよう努力すること、今世紀後半には温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること、そして最新の科学的知見をふまえて国際社会が実現を目指す共通の価値、ビジョンや、協調行動を促すための明確な目標などを提示した。
パリ協定後、世界では4つの大きな変化が生まれている。1つ目は再生可能エネルギーを軸としたエネルギーの大転換。2つ目はゼロ・エミッション・モビリティー。3つ目はビジネスによるゼロ・エミッションの先導、すなわちサプライチェーン、バリューチェーン全体の排出管理・削減。そして4つ目は金融の変化だ。
国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は「再生可能エネルギーに先導された世界の電力市場の変革を目の当たりにしている」と述べた。技術革新で再生可能エネルギーは火力発電と同レベルのコスト競争力を持つようになり、市場は急拡大。極めて大きな投資が生まれている。
再生エネルギー投資の動向
出所:Frankfurt School-UNEP Centre/BNEF,2018から作成
企業価値の問題として
気候変動・SDGsを考える
また温暖化ガス削減、雇用創出、大気汚染削減、エネルギーアクセスの促進など、大きな便益が生まれている。このように再生可能エネルギーは主力電源の一つになりつつあり、この流れは止まらない。
一方、自動車メーカーはゼロ・エミッションへの取り組みを強め、主要国はゼロ・エミッション車(ZEV)の普及に向け政策誘導を進めている。さらにビジネス分野ではパリ協定と同じ目標を持つ企業を認定する「Science Based Targets(SBT)」が注目されている。
金融分野では金融安定理事会(FSB)での気候変動リスク情報開示やESG投資、エンゲージメントなどの動きがある。こうした中、気候変動への対応は投資家や社会から評価されるようになり、企業の社会的貢献のレベルから本業、企業価値の問題へと新たな局面に入っている。
自ら働くクルマを実現。社会システム化が課題
企業では長期の資本性が非常に重要になっている。不透明な現代では人材を確保し、ブレークスルーを生み出すために長期の資金は欠かせない。自動車業界を取り巻く変化の要素は情報化・電動化・知能化。特に情報化と自動化で「自働」運転、すなわち自ら働くクルマを実現し、社会システム化していくことが課題だ。そこではクルマは単体ではなく、モビリティーサービスとして提供される。
そうした中で、自動車メーカーは同じモデルを大量生産で提供するプロダクトアウトの考え方から、すべてのニーズに対応するマスカスタマイゼーションに転換する必要がある。情報通信の進化で人とモノがつながると同時に、要素技術の革新によって人は自由になっていく。要素技術でそれを実現するのが自動車メーカーの役割だ。
トヨタが目指す姿は未来への挑戦と年輪的成長で、その基本は安全・感動・環境の3つだ。環境では二酸化炭素(CO2)排出ゼロ、水環境へのインパクトの最小化、循環型システムの構築、人と自然の協調を目標にしている。これらを経営トップ一人が語るのではなく、社員やステークホルダー全員に共感してもらいながら、一つひとつの製品、システムに盛り込んでいくことが重要だ。
モビリティーカンパニーの究極は
人に寄り添うこと
イノベーションに対する取り組みとしては、自動運転・コネクティド・環境などが挙げられる。
自動運転では人とクルマの協調、ヒューマンマシンインターフェースの中に、今後の要素技術のオペレーティングシステムの根幹がある。当社の社長の豊田章男は常々「クルマの会社からモビリティーカンパニーになる」と語っている。そこで主体になるのは人であり、高齢者や女性、若年層のそれぞれのあり方を考えていくことが重要になる。
未来に挑戦していくためには、①競争と協調の峻別(しゅんべつ)②私益と公益の融合③人とマシンの協調―の3つがポイントになる。
クルマやロボットの無線運転が目指す未来ではない。常に人と一緒に動き、働けるようにすることがヒューマンインターフェースの核心であり、モビリティーカンパニーの究極は人に寄り添うことと考えている。
ビジネスリスク分析の
新開発ツールを提供
2大学と共同でプロジェクト開始、気候変動による洪水リスクを評価
MS&ADグループのビジネスモデル「価値創造ストーリー」はSDGsと親和性が非常に高い。取り組みの道標としてSDGsを取り入れ、2030年を目標にレジリエントでサステナブルな社会の実現を掲げている。そのためには、限界を迎えつつある地球の生命維持装置を保護しながらも、社会と経済のニーズを満たしていくことが必要だ。これには包括的な協働・共創が求められ、当社グループは国内外で様々な取り組みを進めている。
気候変動リスクが今、企業の経営リスクとして顕在化している。世界経済フォーラムのグローバル・リスク・ランドスケープでは11年以降、異常気象など環境リスクが上位を占めるようになった。このままでは気候変動による気象災害などの物理的リスクが大きくなり過ぎて社会が座礁してしまう。脱炭素社会に移行すれば物理的リスクは減るが、それには大きな痛みが伴う。だが、今こそ企業自らが一歩を踏み出していくことが必要だ。
気候変動による洪水頻度変化予測マップ
企業は移行リスクを管理することで、ビジネスチャンスを見いだすことができる。移行リスクは企業によって一様ではないので、ESG関連リスクを全社的リスク管理(ERM)に統合する必要がある。
その中で、MS&ADインターリスク総研はESG関連リスクがビジネスに与える影響を定義するために新たなツールを提供している。一つは事業に関連する世界中の拠点の流域の水リスク評価サービス。もう一つは気候変動リスクによる財務影響評価サービスだ。
保険会社がかねて取り組む物理的リスクへの備えにもさらに力を入れている。例えば、特定地域を対象に「グリーンレジリエンスポテンシャルマップ」を作成できるシステムを構築。ある地域では、それに基づいて山林整備を進め、山地災害を軽減するといった地方創生と防災・減災の相乗効果追求を支援していく。
また、このたび芝浦工業大学と東京大学との共同で、気候変動による洪水リスクの評価をグローバルで行うプロジェクトを開始した。その一環として、長期的な洪水頻度変化予測マップを公表している。