枝廣 淳子氏

 

大学院大学至善館 教授、幸せ経済社会研究所所長、有限会社イーズ 代表取締役

非常に幅広く、自社の考え方や取り組みを報告しており、分量が多いにも関わらず、読みやすい文章とつくりになっています。重要課題の特定から具体的な取り組みへつなげるプロセスおよびその進捗管理の方法も明確です。実際の取り組みも、CO2排出量(スコープ1+2)を2009年比13.3%削減し、昨年指摘した温暖化の適応策の提供もさまざまに行うなど、着実に推進・拡充されていることが伝わってきます。温暖化への取り組みが社内取締役の業績連動報酬に反映されるなど、本気で取り組む体制づくりも進めていることがわかります。

 

現時点でも大変しっかりした報告書ですが、さらに先に進む上で何点か指摘します。

 

まず、究極のめざす姿として繰り返し言及されている「レジリエントでサステナブルな社会」の、自分たちなりの定義やイメージを共有してください。「レジリエント」はまだそれほどなじみのない用語ですし、使う人によってさまざまな意味合いを持つ用語です。「レジリエントでサステナブル」とは具体的にどのような社会をイメージしているのかを説明することで、それぞれの取り組みがどこにつながるものなのかがわかりやすくなります。

 

さらに、トップメッセージなどで、より大局的に長い時間軸で、どのような世界を予期し、対応しようとしているのかを伝えてください。「国内外で課題視されている」「社会問題になっている」ものへの取り組みを進めていることはわかりますが、まだ社会問題になっていないリスクはどうでしょうか? 温暖化以外にも、AIや自動運転の時代に新たなリスクが出てくるのではないでしょうか? 国内では人口減少や地域の疲弊がどのようなリスクをもたらすのでしょうか? 人々がまだ気づいていないリスクや見えていない可能性や危険性を掘り下げ、自社としてどのように対応を考えているのかを報告することも、「リスクを見つけ伝える」重要な役割の1つではないかと思います。

また、前回の指摘とも重なりますが、非常に広範囲なさまざまな取り組みの報告はあるものの、その説明にとどまっているものが多く、この1年の実績(特に変化)と、それを踏まえて、次にどうしていくつもりなのかを報告してください。特に、社員満足度など、数年間数字が変わらないものについては、引き続き同じように数字を出すだけでなく、より深い分析とそれに基づく打ち手の報告を求めます。

 

最後に、テーマとして、事業の性格からいっても、社会の要請からいっても、温暖化がメインであるのは当然ではありますが、世界的な課題である水問題、生物多様性、日本の喫緊の課題である地方創生、ソーシャルインパクトなどについてもぜひ取り組みを進めてください。自然資本の持続可能性について、他社へのコンサルティングサービスなどは提供していますが、自社にとってのワガコト化も進めてください。

温暖化についても、「2009年比2050年に70%削減」という目標は、設定時には先進的なものでしたが、パリ協定下でのさまざまな展開、特に昨年秋の1.5℃報告書、今年春に日本政府が出した長期目標にかんがみると、さらに進化が求められます。コインの両面ですが、RE100に参加するなど、エネルギーへの取り組みも必須です。

 

他社のお手本となる情報開示をさらに進化させつつ、より大きな視座と進んでいこうとする方向性とその各ステップがより伝わる報告を期待しています。

 サステナビリティレポート 第三者意見を受けて

 

『MS&ADインシュアランス グループ サステナビリティレポート2019』への評価と貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。

 

2018年度は、新たにスタートした中期経営計画「Vision 2021」で定めた2030年に目指す社会像「レジリエントでサステナブルな社会」の実現に向け、SDGsを道標に社会との共通価値の創造(CSV)に取り組んでまいりました。年々、激甚化しつつある自然災害や巧妙化するサイバー攻撃等、不測の事態への備えはもちろんのこと、持続可能な社会の実現に向け、大胆な変革が試みられる過程で様々なリスクが顕在化します。当社グループは、このようなリスクも含め、課題に適した対応策を提供し、「多様化・甚大化する事故や災害」、「限界に近づく地球環境」、「高齢化に伴う介護・医療関連の負担増」、「格差拡大等による社会の活力低下」のように多くの人々が解決を望む社会的課題への取り組みを進めています。

 

2019年度も引き続き、CSV取組を進め、社会的課題の解決に資する保険・金融サービスを提供してまいります。いただきましたご意見は、当社グループが2030年に目指す社会像「レジリエントでサステナブルな社会」の実現に向けて取り組むCSVについて、すべてのステークホルダーの皆さまにお伝えするうえで、示唆に富む大変重要なものであります。

 

ご指摘いただきました4点につきましては、以下のように進めてまいります。

1つ目、「レジリエントでサステナブルな社会の定義やイメージを具体的に説明する」ことにつきましては、中期経営計画「Vision 2021」策定時に2030年の目指す社会像の実現に向けて描いた道筋を、今後わかりやすく整理し、目指す社会像とCSV取組とを統合した内容を記載することで、説明してまいります。

2つ目、「大局的に長い時間軸で世界を予期し、対応することを伝える」ことにつきましては、引き続き4つの社会的課題を中心に社外の機関とも連携しつつあらゆるリスクの研究・調査を進め、社会的課題とそれに対するソリューションを、より中長期的な視点からお伝えしてまいります。

3つ目、「1年間の実績と変化を踏まえて、次にどうしていくつもりなのかを報告する」ことにつきましては、今後は、年間の総括に触れるとともに、当社グループが進める取り組みの将来に向けた展望を、できるかぎりわかりやすく報告してまいります。

4つ目、「温暖化以外の世界的な課題についても取り組みを進める」ことにつきましては、「あるべき社会の実現に向けて、それを阻む社会的課題に向き合い、そこから生じる多様なリスクをいち早く見つけ、お伝えし、リスクの発現を防ぎ、リスクの影響を小さくするとともに、リスクが現実となったときの経済的負担を小さくするためのさまざまな商品・サービスを提供することで、お客さまが安心して生活や事業活動を行うことのできる環境づくりを行う」という当社の価値創造ストーリーに立ち戻り、その実現に努めてまいります。

 

当社グループは、経営理念に掲げる「安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来」を支えるために、どのように取り組み、貢献していくのかを明確にし、ご意見いただいた点を積極的に取り入れ、ステークホルダーならびに当社にとって有意義な情報開示となるよう努めてまいります。

 

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社

総合企画部長 白井 祐介