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北極海航路による貨物輸送の将来性とは? - スエズ運河航路との比較から、北極海航路利用拡大の可能性を探る - 北極海航路による貨物輸送の将来性とは?
スエズ運河航路との比較から、北極海航路利用拡大の可能性を探る

 ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通って東アジアに至る「北極海航路」。最近までその一部がロシアの国内航路として利用されるだけでしたが、近年の地球温暖化により北極海の氷が減少し、航海の難しさが軽減されたため、ヨーロッパ・東アジア間の海上輸送におけるスエズ運河航路の代替ルートとして注目されるようになりました。今回のレポートでは、北極海航路の利用が拡大するための条件と将来性を考察します。

POINT1 欧州と東アジアの航行距離を短縮する北極海航路POINT1
欧州と東アジアの航行距離を短縮する北極海航路

(出所)Northern Sea Route Information Office

北極海航路のメリットに注目

北極海航路がスエズ運河航路の代替ルートとして注目される理由は、2つのメリットにあります。1つめのメリットは、スエズ運河航路に比べて航行距離が短いこと。例えば、ロッテルダムから横浜までの航行距離は、スエズ運河航路が11,205海里のところ、北極海航路は7,345海里で、34%も短縮されます。そして2つめのメリットは、航路上の難所=チョーク・ポイントがないことです。スエズ運河航路にはバーブ・アルマンデブ海峡(紅海からアデン湾に抜ける海峡)、およびマラッカ海峡というチョーク・ポイントがあり、海賊などのリスクを伴うことが知られています。

POINT2 北極海航路の現状 海氷に耐えて航行する船舶POINT2
北極海航路の現状 海氷に耐えて航行する船舶

左(出所)Arctic Marine Shipping Assessment 2009 Report (Arctic Council)
 (原資料はErik M. Eilers 2004)
右(出所)Arctic Marine Shipping Assessment 2009 Report (Arctic Council)
 (原資料はLawson Brigham)

伸び悩む北極海航路の現実

北極海航路は2009年にヨーロッパ・東アジア間の商業輸送に初めて利用されました。しかし、現在までその利用は拡大することなく、限定的な利用にとどまっています。Northern Sea Route Information Office(ノルウェーの研究機関Centre for High North Logisticsの一組織)によると、ヨーロッパ・東アジア間の航海の件数は、貨物を積まない航海を含めても2013年が15件、2014年が31件、2015年が18件とごく少数です。輸送された貨物は、ガスコンデンセート(天然ガスの採掘に伴って産する液体成分)、燃料油、鉄鉱石、冷凍した魚などとなっています。

POINT3 北極海航路とスエズ運河航路のコスト比較POINT3
北極海航路とスエズ運河航路のコスト比較

北極海航路の収益性とリスクを検証

航行距離が短縮され、チョーク・ポイントがないにもかかわらず、北極海航路の利用が限定的な理由はどこにあるのか。それは、海運会社にとって北極海航路輸送の収益性がスエズ運河航路に比べて必ずしも高くない一方、リスクが高いからと考えられます。北極海航路輸送の収益性がスエズ運河航路に比べて必ずしも高くない理由は、両航路の航海日数が同じで、したがって運賃収入も同じという前提に立つ場合、北極海航路輸送のコストがスエズ運河航路に比べて必ずしも低くないためです(上表のコスト比較を参照)。また、北極海航路輸送のリスクがスエズ運河航路より高い理由は「気象・海象予報の精度、大型船に対する緊急対応体制、航路標識・海図の整備が十分ではない」、「砕氷船による航行支援の料金が不透明」 など、航海の予見可能性(所要日数やコストを正確に予測できること)が低いためです。

POINT4 北極海航路のコストとリスクの低減策POINT4
北極海航路のコストとリスクの低減策

北極海航路の輸送拡大の条件

北極海航路の輸送には、収益性とリスクの問題があることから、現在は海運会社が積極的に耐氷船への投資を行い、北極海航路輸送に参入する状況にはないと推測されます。しかし将来、ヨーロッパ・東アジア間の海上物流が拡大し、スエズ運河航路のキャパシティが限界に近づく可能性もあることから、北極海航路には代替ルートとしての潜在力があるといえます。どのような条件が整えば、将来的に北極海航路輸送が拡大するのか。その主要な条件は、上表で整理したコストとリスクの低減にあると考えられます。

POINT5 ヤマル半島LNGの輸出航路POINT5
ヤマル半島LNGの輸出航路

(注)図中の数字は、各航路の平均所要日数を示す。
(出所)NOVATEK社IRミーティング資料 "Harnessing the Energy of the Far North" (2016年11月16日)

北極海航路のLNG輸送に期待

北極海航路には、スエズ運河航路の代替ルート以外に、もう一つの重要な利用価値があります。それは、北極圏に産出する石油・天然ガスの輸送に利用できることです。ロシアの北極海沿岸では、天然ガスをLNGに加工し、北極海航路を通じて東アジア・ヨーロッパ・南米諸国に輸出するプロジェクトが進んでいます。具体的には、同国のエネルギー企業であるNOVATEK社が、北極海に面するヤマル半島の中部(図にある航路の起点)で、ガス田の開発とLNGプラント・輸出港の建設を進めており、また計15隻の砕氷LNG船(自力で氷を割って氷海を航行できる船)を発注しています。LNGの年間生産能力1,650万トンのうち96%は契約済みで2017年中に出荷が開始される予定です。NOVATEK社はまた、ヤマル半島に近いギダン半島でも大規模なガス田を開発し、LNGを輸出する計画を持っています。この計画が実現すれば、北極海航路によるLNG輸送は今後大きく伸びると予想されます。

北極海航路の課題と未来を展望する

北極海航路の利用拡大を妨げているコストとリスクなど、いくつかの課題を解決することが求められています。海運会社にとってハイリスクの原因となる航海の予見可能性の低さの改善には、気象・海象予報の精度向上、 砕氷船支援料金の明確化等が必要です。また、耐氷船の燃費向上、氷海特有の技術と経験を持つ船員の育成による人件費削減など、採算性を上げていくことが求められています。これらの課題を軽減し、スエズ運河航路に対する北極海航路の優位性を高めることが重要です。

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